薬剤関連顎骨壊死(Medication-related osteonecrosis of the jaw: MRONJ)に続発した咀嚼筋間隙膿瘍の1例

症例は80歳女性.左顎の痛みを主訴に受診した.診察時に左側頭部から左下顎角までの発赤,腫脹を認めた.頭頸部造影CTでは左側頭部から下顎枝周囲に沿って下顎角まで,側頭筋内部,咬筋内部を中心とした辺縁に造影効果を伴う低濃度陰影を認め,嚼筋間隙膿瘍の診断で入院となった.また,既往の左乳癌の骨転移に対して,デノスマブの投与歴があり,右下中切歯部,左上側切歯部に骨露出を認めMRONJも併発していた.抗菌薬と切開排膿し連日洗浄を実施し改善は認めたものの,少量の排膿は持続していた.患者本人の希望もあり,抗菌薬を内服に変更し,外来にて経過観察とした.退院後2ヵ月あたりで排膿は消失し,退院後3ヵ月のCTで膿瘍腔...

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Published in耳鼻咽喉科展望 Vol. 67; no. 3; pp. 144 - 148
Main Authors 川崎 健史, 大戸 弘人, 長岡 真人, 福田 伸樹, 伊藤 江里奈
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 耳鼻咽喉科展望会 15.07.2024
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ISSN0386-9687
1883-6429
DOI10.11453/orltokyo.67.3_144

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Summary:症例は80歳女性.左顎の痛みを主訴に受診した.診察時に左側頭部から左下顎角までの発赤,腫脹を認めた.頭頸部造影CTでは左側頭部から下顎枝周囲に沿って下顎角まで,側頭筋内部,咬筋内部を中心とした辺縁に造影効果を伴う低濃度陰影を認め,嚼筋間隙膿瘍の診断で入院となった.また,既往の左乳癌の骨転移に対して,デノスマブの投与歴があり,右下中切歯部,左上側切歯部に骨露出を認めMRONJも併発していた.抗菌薬と切開排膿し連日洗浄を実施し改善は認めたものの,少量の排膿は持続していた.患者本人の希望もあり,抗菌薬を内服に変更し,外来にて経過観察とした.退院後2ヵ月あたりで排膿は消失し,退院後3ヵ月のCTで膿瘍腔も完全に消失した.本症例はMRONJに咀嚼筋間隙膿瘍を併発した症例であった.我々が渉猟し得た限り,MRONJのない咀嚼筋間隙膿瘍と比較するとMRONJに咀嚼筋間隙膿瘍を併発した症例は治療に要した期間が長期に及んだ.MRONJから咀嚼筋間隙膿瘍が生じた症例では,抗菌薬の治療期間は長く,治療経過が難治性の経過となる可能性がある.癌治療に対する薬物治療の発展に伴い,多くの癌腫において長期生存が可能になった.骨転移を伴う患者へ抗RANKLモノクローナル抗体製剤などを使用する患者も今後増加一途をたどると思われるため,MRONJを念頭に置きながら診療において注意していく必要がある.
ISSN:0386-9687
1883-6429
DOI:10.11453/orltokyo.67.3_144