2 アカイエカ成虫における栄養生殖分離は適応的形質か?(第57日本衛生動物学会南日本支部大会講演要旨)

蚊の雌成虫が越冬前に吸血するかどうかは, 病原体の越冬経路を明らかにする上で重要である. 休眠を誘導したアカイエカの雌成虫はふつう吸血源動物を探索しないが, 人工的にこのステップを省略させて吸血源動物を接近させた場合, 吸血行動が引き起こされることがある. しかし, 栄養生殖分離と呼ばれるこの現象が適応的なバックグラウンドをもった形質かどうかはよく分かっていない. 秋に羽化した休眠成虫は, 越冬前に脂肪体や脂質類を蓄積する必要から, たんぱく質の豊富な血液ではなく, 炭水化物(糖類)を多く含んだ花蜜などを摂取しなければならない. しかし, 花蜜などを十分に摂取できなかった場合に, 血液から少し...

Full description

Saved in:
Bibliographic Details
Published inMedical Entomology and Zoology Vol. 59; no. 2; p. 122
Main Authors 津田, 良夫, 大橋, 和典, 高木, 正洋
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本衛生動物学会 2008
Online AccessGet full text
ISSN0424-7086
2185-5609
DOI10.7601/mez.59.122_3

Cover

More Information
Summary:蚊の雌成虫が越冬前に吸血するかどうかは, 病原体の越冬経路を明らかにする上で重要である. 休眠を誘導したアカイエカの雌成虫はふつう吸血源動物を探索しないが, 人工的にこのステップを省略させて吸血源動物を接近させた場合, 吸血行動が引き起こされることがある. しかし, 栄養生殖分離と呼ばれるこの現象が適応的なバックグラウンドをもった形質かどうかはよく分かっていない. 秋に羽化した休眠成虫は, 越冬前に脂肪体や脂質類を蓄積する必要から, たんぱく質の豊富な血液ではなく, 炭水化物(糖類)を多く含んだ花蜜などを摂取しなければならない. しかし, 花蜜などを十分に摂取できなかった場合に, 血液から少しでも栄養を補うことは適応的かもしれない. このような考えに基づいて, 休眠成虫による吸血行動の本来の目的が, 十分に採餌できなかった場合に栄養を補給することであるという仮説をたてた. これを検証するために, 休眠誘導条件下(10L, 20℃)で羽化させた成虫に0.5%, 1%, 3%の砂糖水を10日間与えて飼育し, 雌成虫の脂肪体と脂質類の蓄積量を測定するとともに, マウスを与えて吸血率を比較した. その結果, 低濃度の砂糖水では脂肪体や脂質類が全く蓄積されていなかったにもかかわらず, 吸血率が高くなることはなかった. したがって仮説は棄却され, アカイエカ休眠成虫における栄養生殖分離は, 少なくとも栄養補給を目的とした適応的な形質ではないと考えられた.
ISSN:0424-7086
2185-5609
DOI:10.7601/mez.59.122_3