4.鳥類標識調査で判明した渡り鳥の移動実態(テーマ : 位置情報と地理情報システム : 渡り鳥調査の事例から学ぶ)(第42回日本衛生動物学会東日本支部例会講演要旨)
[はじめに] 鳥類は飛翔という特性を生かして, 地球上を文字どおり渡り歩いている. その移動距離は数千キロから, 数万キロにも及ぶものがいる. そして鳥は渡ることによって, 限られた地球の環境や資源を最大限有効に利用することに成功した. このように定期的に繁殖地と越冬地を移動することを「渡り」と定義しており, その実態や起源は謎が多く, 様々な方法で研究されてきた. もっとも歴史があり, かつ現在も有効な研究方法は, 足環や首輪などによって個体識別し, 再捕獲や観察によって, その移動を把握する標識調査である. 現在世界各国において年間500~600万羽の鳥に足環が装着されており, 20万羽近...
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Published in | Medical Entomology and Zoology Vol. 55; no. 2; p. 164 |
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Main Author | |
Format | Journal Article |
Language | Japanese |
Published |
日本衛生動物学会
2004
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ISSN | 0424-7086 2185-5609 |
DOI | 10.7601/mez.55.164 |
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Summary: | [はじめに] 鳥類は飛翔という特性を生かして, 地球上を文字どおり渡り歩いている. その移動距離は数千キロから, 数万キロにも及ぶものがいる. そして鳥は渡ることによって, 限られた地球の環境や資源を最大限有効に利用することに成功した. このように定期的に繁殖地と越冬地を移動することを「渡り」と定義しており, その実態や起源は謎が多く, 様々な方法で研究されてきた. もっとも歴史があり, かつ現在も有効な研究方法は, 足環や首輪などによって個体識別し, 再捕獲や観察によって, その移動を把握する標識調査である. 現在世界各国において年間500~600万羽の鳥に足環が装着されており, 20万羽近い移動回収記録が得られている. これによって多くの渡りの実態が証明されてきた. 一方鳥類の高度な移動能力は, それに付随して, 植物の種子や花粉散布, 寄生虫や病原体の伝播に関与する可能性を有している. これまでの標識調査で判明してきた国内外の渡り鳥の移動実態を例示し, 今後の各方面との連携の参考に供したい. [鳥類標識調査とその意義] 鳥類標識調査(バンディング)とは, 一羽一羽の鳥が区別できる記号や番号がついた標識(足輪)を鳥につけて放し, その後標識のついた鳥を見つけ, その番号を確認する(回収する)ことによって鳥の移動や寿命について正確な知識を得るものである. その意義としては, 1)越冬地, 渡りの経路, 重要な中継地の発見, 渡りの時期とスピードの解明, 幼鳥の分散と新分布地での定着, 生存率, 繁殖開始年齢, 最高寿命, 主要死因など渡り鳥の生態解明, 2)個体群動態のモニタリング, 3)種や亜種の識別, 年齢性別の判定基準の確立など, 鳥の形態や分類の研究, 4)地域の鳥相の把握, 5)酵素やDNA分析など生化学的な分類, 重金属や農薬汚染の測定, 寄生虫の種類など他分野への貢献, 6)鳥の適正な捕獲量の設定や保護区設定, 効果的な保護策の策定など狩猟行政, 管理への応用, 7)渡り鳥調査など共同調査による国際協力, 資料の収集と共有, 8)直接鳥に触れる感動, 鳥の体の構造, 生理などを学ぶなど, 自然教育や環境保全活動への活用, 9)渡りの生態, 繁殖の生態, 生存率など鳥類保護に役立っ資料の提供, モニタリングがあげられる. [日本の鳥類標識調査の歴史] 鳥類標識調査は, 1924年農商務省によって開始され1943年に戦争で中断されるまで約20年間に約317,000羽が標識放鳥され, 15,000羽が回収された. 戦後は1961年から, 農林省が山階鳥類研究所に委託して再開され, 1964年から7年間米軍の移動動物病理学調査で東南アジア地域の渡り鳥調査が行われた. 1972年から環境庁(現環境省)がこの事業を受け持ち, 山階鳥類研究所へ委託して調査を継続している. 1961年から2002年までに約358万羽を標識放鳥し, 約2万羽を回収している. 最近では全国稚内から八重山まで, 多数の標識調査員に支えられて, 毎年約18万羽の鳥を標識放鳥し, 今まで分からなかった渡りの行き先や渡りのコースが次第に判明してきている. バンディングの方法としては, 金属足輪以外に首輪やカラーマーキングも目的に応じて導入されている. 環境モニタリングとしての標識調査の役割] 長距離を「渡る」鳥の動向は, 地球規模の環境変化を反映しているものと考えられる. こうした観点により1980年代から, ヨーロッパ諸国やアメリカでは, バンディングの手法を用いて小鳥類の個体数年変動を広域かつ長期間モニタリングしている. 幼鳥の捕獲数による繁殖成功率と成鳥の再捕獲率による生存率を調査することにより, 変動の原因究明も目指している. 標識の回収による渡り地域を, 夏, 冬鳥に分けて地図上に表示することにより, 日本周辺の渡り鳥が, シベリアからオーストラリアに至るユーラシア大陸沿岸ルートのほか, アメリカ大陸との接点も明らかとなった. 一般的には留鳥, 漂鳥に区分される鳥種でも, かなりの移動をするものがいることも判明しており, 例えばアメリカ大陸から日本へ移動したハヤブサも確認されている. これらのルートは北米大陸太平洋沿岸の渡り鳥ルートの生息地と接することから, 渡り鳥によるウイルス等病原体の大陸間移動の可能性も推測できた. 特にオナガガモの標識回収例を見ると, 日本とアメリカとの渡りは緊密であることは明らかである. [終わりに] 国際共同研究に裏打ちされた鳥類の標識回収結果による鳥の移動実態は, 衛生動物学をはじめとする関連分野にも多大な貢献の可能性があることを示した. |
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ISSN: | 0424-7086 2185-5609 |
DOI: | 10.7601/mez.55.164 |