鼻出血で救急搬送された「たこつぼ型心筋症」の1症例

84歳の女性。3年前に夫が他界した後,精神的ストレスを感じることが多くなった。今回,入浴後に鼻出血を認め,約30分の安静でも止血せず救急搬送となった。到着時,鼻出血は少量であった。鼻出血処置前のバイタルサインは,血圧151/75mmHgに上昇し,モニター心電図でST上昇を認めた。胸部症状がなかったため,5,000倍希釈アドレナリン浸透ガーゼでパッキングを行い止血を得た。モニター心電図でST上昇が持続していたため,12誘導心電図を施行したところ,II,III,aVf,V3-V6誘導でST上昇を認めた。心臓超音波検査で左室心尖部における壁運動低下を認めた。さらに救急車内で一時的に胸痛を自覚していた...

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Published in日本救急医学会雑誌 Vol. 24; no. 12; pp. 1007 - 1012
Main Authors 岩下, 晋輔, 小川, 久雄, 笠岡, 俊志, 藤末, 昴一郎, 小島, 淳, 小寺, 厚志, 池田, 武士
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 一般社団法人 日本救急医学会 2013
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ISSN0915-924X
1883-3772
DOI10.3893/jjaam.24.1007

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Summary:84歳の女性。3年前に夫が他界した後,精神的ストレスを感じることが多くなった。今回,入浴後に鼻出血を認め,約30分の安静でも止血せず救急搬送となった。到着時,鼻出血は少量であった。鼻出血処置前のバイタルサインは,血圧151/75mmHgに上昇し,モニター心電図でST上昇を認めた。胸部症状がなかったため,5,000倍希釈アドレナリン浸透ガーゼでパッキングを行い止血を得た。モニター心電図でST上昇が持続していたため,12誘導心電図を施行したところ,II,III,aVf,V3-V6誘導でST上昇を認めた。心臓超音波検査で左室心尖部における壁運動低下を認めた。さらに救急車内で一時的に胸痛を自覚していたことが確認されたため,急性冠症候群を疑い心臓カテーテル検査を施行した。冠動脈造影では有意狭窄病変はなく,左室造影で心尖部を中心とした左室のバルーニングを認めたことから,たこつぼ型心筋症(Takotsubo cardiomyopathy: TCM)と診断した。経過良好で第14病日には心機能も改善し,第27病日に退院した。TCMは急性心筋梗塞に類似した胸部症状を呈する病態で,高齢女性に好発し,精神的ストレスが誘発因子と考えられている。我々の調べ得た限りでは,鼻出血にTCMを合併した報告は,本症例が初めてであった。本症例では,救急外来で心電図を含む標準的モニタリングを施行したことが,TCMの合併を診断することにつながった。標準的モニタリングによる初期評価の重要性を再認識した。しかしながら,早期にST上昇に気付きながら,到着時に胸部症状を認めなかったことから,アドレナリンによる止血処置を優先したことは合併していたTCMを増悪させる可能性もあり反省すべき点であった。
ISSN:0915-924X
1883-3772
DOI:10.3893/jjaam.24.1007