災害に対する社会的脆弱性指標に関する研究動向と日本における導入の課題―Social Vulnerability Index(SoVI)を事例に

本稿は,災害に対する脆弱性に関する研究のレビューを行ったうえで,社会的脆弱性を定量的・空間的に評価する指標のうち最も広く利用・言及されている SoVI を中心に,その研究動向について紹介し,日本に導入するうえでの課題について考察した。一般に,「脆弱性の高い場所や集団は,より災害からの影響を受けやすい」ものとして脆弱性概念は災害研究のなかで理論化され,また被害発生,復興状況の空間的差異として現れるものとしてその解明が行われてきた。指標化によって脆弱性の空間的差異を明らかにすることは,災害研究と国際的な防災政策の潮流の交差するところに位置づけられ,その重要性は多くの研究で認められているが,日本にお...

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Published in人文地理 Vol. 76; no. 2; pp. 111 - 126
Main Author 内山, 琴絵
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 一般社団法人 人文地理学会 2024
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ISSN0018-7216
1883-4086
DOI10.4200/jjhg.76.02_111

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Summary:本稿は,災害に対する脆弱性に関する研究のレビューを行ったうえで,社会的脆弱性を定量的・空間的に評価する指標のうち最も広く利用・言及されている SoVI を中心に,その研究動向について紹介し,日本に導入するうえでの課題について考察した。一般に,「脆弱性の高い場所や集団は,より災害からの影響を受けやすい」ものとして脆弱性概念は災害研究のなかで理論化され,また被害発生,復興状況の空間的差異として現れるものとしてその解明が行われてきた。指標化によって脆弱性の空間的差異を明らかにすることは,災害研究と国際的な防災政策の潮流の交差するところに位置づけられ,その重要性は多くの研究で認められているが,日本においては適用事例がほとんどない。その要因として,日本の防災政策においては,ハザードおよび建造環境に基づいた危険度分布の作成および脆弱性の高い個人・集団を特定した福祉的支援が一般的であること,また日本においてミクロスケールでの社会経済状況を表す変数の入手可能性が限られていることが挙げられる。一方で,指標化によって脆弱性の高い地理空間の地域比較・経年比較を行うことが可能となるため,SoVI は潜在的な防災上の課題を可視化するためのツールとして位置づけられることから,場所やハザードに特化した空間的評価手法に基づく脆弱性を検討することには一定の意義があると考える。
ISSN:0018-7216
1883-4086
DOI:10.4200/jjhg.76.02_111