心臓血管外科医の働き方改革と急性大動脈解離の手術成績の両立の試み
[背景]「医師の働き方改革」の施行が2024年4月に迫っている.心臓血管外科は時間外の救命手術が多く,年間960時間,月100時間未満の時間外労働の上限(A水準)の達成は困難と予想される.当院では以前から積極的なタスクシフティングを行い,術後管理はclosed ICUで集中治療医が担当することで外科医が手術に集中できる環境を構築してきた.2021年の当院の心臓血管外科常勤医は5名で,このうち4名が急性大動脈解離に対する緊急手術の執刀を担当する.どの2名の組み合わせでも緊急手術対応が可能となったことで,定期手術あるいは時間外オンコールの人員配置の自由度が増した.この体制における当院での労働環境と...
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Published in | 日本心臓血管外科学会雑誌 Vol. 52; no. 5; pp. 299 - 304 |
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Main Authors | , , , , , , |
Format | Journal Article |
Language | Japanese |
Published |
特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
15.09.2023
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Subjects | |
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ISSN | 0285-1474 1883-4108 |
DOI | 10.4326/jjcvs.52.299 |
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Summary: | [背景]「医師の働き方改革」の施行が2024年4月に迫っている.心臓血管外科は時間外の救命手術が多く,年間960時間,月100時間未満の時間外労働の上限(A水準)の達成は困難と予想される.当院では以前から積極的なタスクシフティングを行い,術後管理はclosed ICUで集中治療医が担当することで外科医が手術に集中できる環境を構築してきた.2021年の当院の心臓血管外科常勤医は5名で,このうち4名が急性大動脈解離に対する緊急手術の執刀を担当する.どの2名の組み合わせでも緊急手術対応が可能となったことで,定期手術あるいは時間外オンコールの人員配置の自由度が増した.この体制における当院での労働環境と急性大動脈解離の手術成績を報告し,心臓血管外科における働き方改革について検討する.[対象]2021年1月から12月までの1年間に当院で緊急開胸手術を要した急性大動脈解離39例を対象に手術成績を検討した.常勤医5名の執刀症例数(および第一助手数)はそれぞれ7例(13例)/9例(6例)/12例(3例)/11例(7例)/0例(10例)であった.その他,同期間中に緊急でステントグラフト治療を要した急性大動脈解離は8例あった.同期間での当科の救急患者(急性大動脈解離以外も含む)応需率は100%であった.結果は中央値[四分位範囲]もしくは症例数(%)で表記した.[結果]年齢69歳(60.5~75.5歳),女性19例(48.7%).Stanford A型が36例(92.3%)で,うちDeBakey II型は8例(22.2%).術前ショック状態8例(20.5%),malperfusionあり13例(30.8%).術式はTAR 19例/PAR 8例/HAR 12例(Bentall手術2例を含む)で,併施手術はAVR 5例/CABG 2例/TEVAR 1例/下肢動脈形成術2例/右半結腸切除1例.手術時間400分(328.5~495.5分),体外循環時間194分(169.5~239.5分),心停止時間108分(88~128分),選択的脳分離時間125分(50.5~147分),下半身循環停止時間46分(36.5~55.5分).入院死亡3例(7.7%),脳梗塞5例(12.8%),遅発性不全対麻痺1例(2.6%).術後挿管期間1日(1~4日),在院日数は23日(18~27日),自宅退院は25例(64.1%)だった.[労働環境]1カ月あたりのオンコールは12,13回.常勤医5名の時間外労働の最長は年間480.5時間,月間68.5時間で,時間外手当は全額支給された.夜勤明けの勤務免除も可能であった.[結語]当院での急性大動脈解離の手術成績は全国平均と比較しても良好であった.術者を固定しないことで柔軟な緊急対応が可能となり,定期手術やオンコールの人員配置の自由度が増し,地域のニーズに応えながらも働き方改革と手術の安全性の両立が可能と考えられた. |
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ISSN: | 0285-1474 1883-4108 |
DOI: | 10.4326/jjcvs.52.299 |