過去データを活用した植物の分布変化の検出

気候変動に伴う生物及び生態系の変化は,生態系の機能やサービスの変容を通して人間社会に大きな影響を与えるため,迅速な影響検出が早急な適応策の立案のために必要である。その際,過去に観測されたデータを用いて現在の観測と比較することは,過去の気候変動による影響をいち早く検出することを可能にするため,大きなポテンシャルを有している。そこで本稿では,陸上生態系の生産者である植物を対象として,我が国における過去データを用いた気候変動影響観測の試みの整理を行うとともに,将来的な課題を議論した。陸上植物の観測データとしてこれまで,分布,種組成,景観,生長量・生産性,動態,生物季節など多種多様なタイプの観測データ...

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Bibliographic Details
Published inChikyu Kankyo Vol. 28; no. 1; pp. 3 - 13
Main Author 小出, 大
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 一般社団法人 国際環境研究協会 2023
ASSOCIATION OF INTERNATIONAL RESEARCH INITIATIVES FOR ENVIRONMENTAL STUDIES
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ISSN1342-226X
2758-3783
DOI10.57466/chikyukankyo.28.1_3

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Summary:気候変動に伴う生物及び生態系の変化は,生態系の機能やサービスの変容を通して人間社会に大きな影響を与えるため,迅速な影響検出が早急な適応策の立案のために必要である。その際,過去に観測されたデータを用いて現在の観測と比較することは,過去の気候変動による影響をいち早く検出することを可能にするため,大きなポテンシャルを有している。そこで本稿では,陸上生態系の生産者である植物を対象として,我が国における過去データを用いた気候変動影響観測の試みの整理を行うとともに,将来的な課題を議論した。陸上植物の観測データとしてこれまで,分布,種組成,景観,生長量・生産性,動態,生物季節など多種多様なタイプの観測データを,博物館標本や,植生調査,毎木調査,リモートセンシング,生物季節調査などで蓄積してきた。これらのデータを用い,我が国でも稚樹と母樹の分布差を使った高木樹種の分布移動評価や,追跡調査による種組成,動態,生物季節,景観の変化,種分布モデルを使った将来分布予測などが行われている。一方で,紙で保存されているデータの発掘・共有や,異なる観測対象の比較・統合によるメカニズム比較,構築された種分布モデルの共有・利活用,効率的な観測とモデルの検証・改善などの課題が考えられた。こうした課題を克服し,古きを訪ねて新しきを知る体制を構築できれば,気候変動に適応した生態系管理に近づけるだろう。
ISSN:1342-226X
2758-3783
DOI:10.57466/chikyukankyo.28.1_3