在宅医療における管理栄養士業務のニーズに関する研究
(緒言) わが国における医療費はすでに40兆円を凌駕し,病院中心の医療から地域完結型の“治し支える医療”へというパラダイムシフトによって,退院後も継続的な医療に依存する居宅患者が増加傾向にある.在宅医療での適切な栄養管理によって居宅患者の基礎的な体力を維持・増大させることはまさに“支える医療”の根幹にかかわるものと考えられる.訪問看護ステーションの利用者41万人余に対する看護内容の分析によれば,栄養・食事指導の割合は16.4%に達する1)ことから,本来管理栄養士が担うべき業務に訪問看護師が対応している現状がうかがえる.そこで本研究は,訪問看護師を対象とした調査から在宅医療における管理栄養士業務...
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Published in | The Bulletin of Chiba Prefectural University of Health Sciences Vol. 10; no. 1; p. 1_114 |
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Main Authors | , , , |
Format | Journal Article |
Language | Japanese |
Published |
千葉県立保健医療大学
31.03.2019
Chiba Prefectural University of Health Sciences |
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ISSN | 1884-9326 2433-5533 |
DOI | 10.24624/cpu.10.1_1_114 |
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Summary: | (緒言) わが国における医療費はすでに40兆円を凌駕し,病院中心の医療から地域完結型の“治し支える医療”へというパラダイムシフトによって,退院後も継続的な医療に依存する居宅患者が増加傾向にある.在宅医療での適切な栄養管理によって居宅患者の基礎的な体力を維持・増大させることはまさに“支える医療”の根幹にかかわるものと考えられる.訪問看護ステーションの利用者41万人余に対する看護内容の分析によれば,栄養・食事指導の割合は16.4%に達する1)ことから,本来管理栄養士が担うべき業務に訪問看護師が対応している現状がうかがえる.そこで本研究は,訪問看護師を対象とした調査から在宅医療における管理栄養士業務の潜在的ニーズを明らかにするとともに,実際に在宅医療に関わる管理栄養士への現状調査からどのような実務上の問題点があるかを抽出することを目的とした.(研究方法) 調査1:平成29年5月31日時点で厚労省情報公開システムに登録された千葉県内の訪問看護事業所339施設の管理者(看護師)を対象として,郵送による質問紙調査を行った.質問内容は,①1か月に訪問する利用者の総数,②利用者の主な疾病・病態,③利用者からの食事・栄養に関する相談件数とその内容,④同相談に対する対応状況などである. 調査2:在宅医療を担う異なる診療所に勤務する管理栄養士3名に半構成的面接調査を行った.調査内容は,①栄養食事指導の現状,②利用者の性差や年齢層,③利用保険,④利用者の主な疾病・病態,⑤実務上の問題点などである.(結果) 調査1:83施設(24.5%)から回答が得られた.1か月あたりの利用者数は平均81人(10~800人),のべ訪問件数は平均463件(32~3,800件)であった.全施設が利用者からの食事栄養相談を受けたことがあると回答しており,週に2回以上相談を受ける施設が39施設(48.1%)と約半数を占めた.利用者からの相談にその場でいつも即答できると回答した施設は25施設(30.1%)であった.即答できない場合の対応方法としては,同僚看護師に相談41施設(49.4%),インターネットで調べる35施設(42.2%),医師に相談25施設(30.1%)であり,管理栄養士に相談すると答えたのは15施設(18.1%)に過ぎなかった.即答できなかった相談内容については33施設から回答が得られ,嚥下障害への食事指導(12施設)が最も多く,次いで糖尿病の食事指導,糖尿病と他疾患合併の者への食事指導,その他の特定の疾患・状態者への食事指導,食材・栄養に関する知識(それぞれ4施設)などであった.在宅医療における管理栄養士の必要性については,「まったくそう思う」32施設(39.0%),「まあそう思う」44施設(53.7%)と肯定的な回答が多い一方で,「あまりそう思わない」理由として栄養指導よりも利用者の生活を尊重したいとする意見などがみられた.調査2:3人の1か月あたりの訪問栄養食事指導ののべ件数はそれぞれ5~6件,20~30件,50件で,いずれも80歳以上の利用者が多く,2~3割が独居で,低栄養状態のがん末期,糖尿病,認知症の利用者が対象となっていた.保険についてはほぼ介護保険による居宅療養管理指導料を算定しており,他職種との連携体制を確立するとともに,個別に電話で応対するなど様々な工夫による支援をおこなっているものの,それらは診療報酬や介護報酬にはつながっていない現状が浮き彫りとなった.(考察) 在宅医療のファーストラインに立つ訪問看護師が居宅患者から栄養・食事相談を受ける機会は多く,多様化する病態を背景とした個別性の高い専門的な栄養相談への返答に窮する場面もあることが本研究で明らかとなった.一方で管理栄養士が在宅医療に関わる上での困難さもあり,居宅患者の生活の尊重を大原則としつつもその栄養・食事管理の充実をはかるためには,管理栄養士が効率的に参画できるシステムの構築と普 及が必要であることが示唆された.(倫理規定) 本研究は千葉県立保健医療大学研究等倫理審査委員会の承認を得て実施した(申請受付番号:2017-020).なお開示すべき利益相反はない. |
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ISSN: | 1884-9326 2433-5533 |
DOI: | 10.24624/cpu.10.1_1_114 |