人間の尊厳・福祉・ケア

「福祉」 (welfare) の概念は、生命をめぐる問いに対して一定の方向を指し示す、生命倫理学の基礎概念で ある。しかし福祉概念に関しては、①誰の福祉を保障するべきなのか、②どのようにすれば保障したことになるのか、いずれの問いについても充分に論じられてきたとは言えない。そこで本論文では、これら二つの問いを、福祉の根底にある「人間の尊厳」との関わりにもとづき検討した。具体的にとりあげたのは、マーサ・ヌスバウムと、その批判者であるエヴァ・フェダー・キテイの尊厳論である。考察の結果われわれは、二人の尊厳論を相補的にとらえる必要があるという結論に至った。尊厳を内在的価値と見なす点において、ヌスバウム...

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Published in生命倫理 Vol. 27; no. 1; pp. 55 - 63
Main Author 堂囿, 俊彦
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本生命倫理学会 2017
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ISSN1343-4063
2189-695X
DOI10.20593/jabedit.27.1_55

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Summary:「福祉」 (welfare) の概念は、生命をめぐる問いに対して一定の方向を指し示す、生命倫理学の基礎概念で ある。しかし福祉概念に関しては、①誰の福祉を保障するべきなのか、②どのようにすれば保障したことになるのか、いずれの問いについても充分に論じられてきたとは言えない。そこで本論文では、これら二つの問いを、福祉の根底にある「人間の尊厳」との関わりにもとづき検討した。具体的にとりあげたのは、マーサ・ヌスバウムと、その批判者であるエヴァ・フェダー・キテイの尊厳論である。考察の結果われわれは、二人の尊厳論を相補的にとらえる必要があるという結論に至った。尊厳を内在的価値と見なす点において、ヌスバウムの立場は支持される。しかし尊厳に関しては、ケイパビリティだけで捉えられるのではなく、ケアという関わりを通じて、個別的に判断される必要がある。その意味で、ケアと尊厳のつながりを重視するキテイの立場も、重要な洞察を含んでいる。
ISSN:1343-4063
2189-695X
DOI:10.20593/jabedit.27.1_55