患者と医師のコミュニケーション・意思決定支援 における行動経済学

医療場面では,さまざまな治療や療養の選択が行われる。近年,患者と医療者が共に意思決定の過程を共有する,協働意思決定という考え方が重視されており,治療選択に対して患者自身が主体的に参加することを求められる場面が増えてきている。このことは患者の自立尊重という側面で重要である一方で,複雑な医学的な情報を処理しながら時として自身の生命に関わる重大な選択をしなければならず,患者にとっては負担の大きな作業でもある。このような意思決定の難しさを軽減するアプローチとして,行動経済学の活用が考えられている。治療選択場面を取り上げた研究としてはこれまで,シナリオを用いた質問紙による仮想実験を用いて,ナッジの効果を...

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Published in医療と社会 Vol. 35; no. 1; pp. 71 - 79
Main Author 吉田, 沙蘭
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 公益財団法人 医療科学研究所 28.04.2025
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ISSN0916-9202
1883-4477
DOI10.4091/iken.35-71

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Summary:医療場面では,さまざまな治療や療養の選択が行われる。近年,患者と医療者が共に意思決定の過程を共有する,協働意思決定という考え方が重視されており,治療選択に対して患者自身が主体的に参加することを求められる場面が増えてきている。このことは患者の自立尊重という側面で重要である一方で,複雑な医学的な情報を処理しながら時として自身の生命に関わる重大な選択をしなければならず,患者にとっては負担の大きな作業でもある。このような意思決定の難しさを軽減するアプローチとして,行動経済学の活用が考えられている。治療選択場面を取り上げた研究としてはこれまで,シナリオを用いた質問紙による仮想実験を用いて,ナッジの効果を検証する研究が重ねられてきた。また最近では,実臨床場面での無作為化比較試験を用いた実証的な研究も増えつつある。こうした研究からは,多様なナッジの効果が検証されている。特にデフォルト設定を活用した研究が複数行われており,その有用性が示されている。同時に,医療における意思決定にナッジを用いた介入を行うことの倫理的な課題も抽出されている。例えば,「明らかに望ましい」選択肢が存在しないような意思決定課題において,患者の選択を一方に誘導することの倫理性や,ナッジを用いることそのものが患者に与える侵襲などについて,考慮することが必要である。本稿では,医療における治療選択場面に行動経済学の考えを応用した研究を示しながら,その効果と課題について解説する。
ISSN:0916-9202
1883-4477
DOI:10.4091/iken.35-71