行動経済学・ナッジの発展と実践知
健康医療介護政策分野におけるナッジの研究・活用が今後増えることを期待して2つのことを論じた。1つはナッジの歴史的発展過程である。一般にはナッジは行動経済学の政策への応用と捉えられているが,行動経済学自体の元になったのは認知心理学に基づく行動意思決定論であり,実際の人間の意思決定の系統的なエラーを明らかにすることによって,合理的経済人の仮定を再考させることになった。ナッジを行動経済学の応用と単純に捉えるのではなく,より広範な行動インサイトとして捉えれば,社会心理学,感情心理学,デザイン論を含む行動科学全般の政策への応用と考えることができる。そして,このように考えることが,ナッジ・行動経済学の将来...
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Published in | 医療と社会 Vol. 35; no. 1; pp. 11 - 24 |
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Main Authors | , |
Format | Journal Article |
Language | Japanese |
Published |
公益財団法人 医療科学研究所
28.04.2025
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Subjects | |
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ISSN | 0916-9202 1883-4477 |
DOI | 10.4091/iken.35-11 |
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Summary: | 健康医療介護政策分野におけるナッジの研究・活用が今後増えることを期待して2つのことを論じた。1つはナッジの歴史的発展過程である。一般にはナッジは行動経済学の政策への応用と捉えられているが,行動経済学自体の元になったのは認知心理学に基づく行動意思決定論であり,実際の人間の意思決定の系統的なエラーを明らかにすることによって,合理的経済人の仮定を再考させることになった。ナッジを行動経済学の応用と単純に捉えるのではなく,より広範な行動インサイトとして捉えれば,社会心理学,感情心理学,デザイン論を含む行動科学全般の政策への応用と考えることができる。そして,このように考えることが,ナッジ・行動経済学の将来の発展にもつながる。もう1つは,ナッジの研究や政策を行う上での実践知の提供である。ナッジ介入を含む複数の介入実験研究に携わってきた経験に基づき,研究や政策に活かせる実践知を共有した。エビデンスベースドポリシーに資するよう,フィールド実験,オンライン実験の長所短所を考慮すること,因果関係の推定が可能になるような実験デザインを採用すること,特に複数のナッジを同時検証し,統制群については慎重な検討をすること,行動変容ステージごとの効果検証が必要なこと,分析に当たっては計量経済的な手法を併用すること,今後はナッジの長期効果やサンクコスト効果を考慮した検討が必要なこと等を論じた。 |
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ISSN: | 0916-9202 1883-4477 |
DOI: | 10.4091/iken.35-11 |