2.諸外国における医療情報データの利用状況について:薬剤疫学研究の事例から

本稿では,海外における医療情報の利用の在り方を米国,スウェーデン,台湾で実施された薬剤疫学研究を例にとって概観する.最初の事例は,ピオグリタゾンと膀胱がんとの因果関係を示唆した Kaiser Permanente Northern California(KPNC)の糖尿病レジストリを利用したコホート研究である.本研究の成功は長期間をかけて KPNC において,医療費償還の請求書データ,電子カルテや薬局のデータなどから構築された糖尿病レジストリの存在による.二番目の事例はスウェーデンにおける H1N1 ワクチンの安全性に関する研究である.この研究においては,インターネット上に新たにワクチン登録シ...

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Published in薬剤疫学 Vol. 17; no. 2; pp. 109 - 116
Main Author 久保田, 潔
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 一般社団法人 日本薬剤疫学会 2013
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ISSN1342-0445
1882-790X
DOI10.3820/jjpe.17.109

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Summary:本稿では,海外における医療情報の利用の在り方を米国,スウェーデン,台湾で実施された薬剤疫学研究を例にとって概観する.最初の事例は,ピオグリタゾンと膀胱がんとの因果関係を示唆した Kaiser Permanente Northern California(KPNC)の糖尿病レジストリを利用したコホート研究である.本研究の成功は長期間をかけて KPNC において,医療費償還の請求書データ,電子カルテや薬局のデータなどから構築された糖尿病レジストリの存在による.二番目の事例はスウェーデンにおける H1N1 ワクチンの安全性に関する研究である.この研究においては,インターネット上に新たにワクチン登録システムが構築された.ワクチンの費用償還は登録システムへのワクチン接種の登録を条件としていたため,ほぼ全例の登録に成功している.ワクチン登録システムを既存の医療サービスのデータベースとリンクさせることにより,接種者群のベル麻痺や知覚異常などのまれなアウトカムの非接種者群に対するハザード比を検討している.三番目の事例は台湾における H1N1 ワクチンの安全性モニターのための Large Linked Database(LLDB)である.LLDB は IC Card Data Center の技術を使っており,診断とワクチンに関するデータが毎日収集された.二番目の事例と同様のアウトカムのほか,妊娠に関連する有害なアウトカムがモニターされた.これら 3 つの事例において,糖尿病レジストリ,インターネット上のワクチン登録,LLDB などの新たなシステムが目的意識をもって構築されていた.また,レコードリンケージが,医療情報の価値を高める上でのキーとなる要素をていた. (薬剤疫学 2012; 17(2): 109-116)
ISSN:1342-0445
1882-790X
DOI:10.3820/jjpe.17.109