対象者に合った車椅子作製に向けての検討
【はじめに】 車椅子を新規に作製する際、対象者にあった車椅子の検討が私達PT・OTには要求される。 今回、一日の大半を車椅子で過ごしている方の座位姿勢を改善する目的で新規に車椅子を作製する機会を得た。姿勢が変わることにより、動作にも変化が見られると予測し、仮あわせの段階から評価・検討を行ったので報告する。 【症例】 男性62歳 (昭和17.3.6生) 身長 159.5cm 体重66.6kg 診断名: 脳性麻痺 脳出血 (左片麻痺) 経過: 昭和32年 (15歳) 頃、歩行開始、H学園に入所。昭和47年 (30歳) 脳出血を発症し歩行不能となる。昭和49年 (39歳) K施設へ入所。平...
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          | Published in | 九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 Vol. 2004; p. 124 | 
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| Main Authors | , , , , , , , | 
| Format | Journal Article | 
| Language | Japanese | 
| Published | 
            九州理学療法士・作業療法士合同学会
    
        2004
     Joint Congress of Physical Therapist and Occupational Therapist in Kyushu  | 
| Subjects | |
| Online Access | Get full text | 
| ISSN | 0915-2032 2423-8899  | 
| DOI | 10.11496/kyushuptot.2004.0.124.0 | 
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| Summary: | 【はじめに】  車椅子を新規に作製する際、対象者にあった車椅子の検討が私達PT・OTには要求される。  今回、一日の大半を車椅子で過ごしている方の座位姿勢を改善する目的で新規に車椅子を作製する機会を得た。姿勢が変わることにより、動作にも変化が見られると予測し、仮あわせの段階から評価・検討を行ったので報告する。 【症例】  男性62歳 (昭和17.3.6生) 身長 159.5cm 体重66.6kg  診断名: 脳性麻痺 脳出血 (左片麻痺)  経過: 昭和32年 (15歳) 頃、歩行開始、H学園に入所。昭和47年 (30歳) 脳出血を発症し歩行不能となる。昭和49年 (39歳) K施設へ入所。平成14年 (60歳) 当Kセンター入所。  車椅子座位・姿勢: 一日12時間は車椅子上で過ごしている。頭部体幹ともに前屈右回旋し、左側へ偏位している。屈曲拘縮がある左上肢は、左のアームレストへ寄りかかった状態で置き、体幹を支えている。一時的ではあるが声かけにより意識的に体幹を起こすことが可能である。円背で全体的に体幹が屈曲した状態のため背臥位がとれず寝るときの姿勢は側臥位で2時間おきに体位変換を介助により行っている。  車椅子駆動: 片手駆動にて移動。体幹が左へ傾いているため右ハンドリムとの距離ができ駆動の妨げになっている。直進駆動は右側へ反れて移動するが声かけにより向きの修正が可能である。 【方法】  現在の車椅子と仮あわせ時点での新規車椅子で次の4項目の評価により比較を行った。  1.アライメントの変化  2.日本アビリティーズ社製の体圧測定装置 (以下Xセンサー) による座面の圧の変化: クッションの上から各5分間測定  3.車椅子片手駆動時間 (10m) : 午前中最も覚醒レベルの高い時間 (10時) に各10回測定。床に引いた直線上を前進するよう声かけを行った。  4.食事時間: 箸を持った瞬間から最後の食器または箸を置いたときまで。昼食各10回測定。 【結果】  1.車椅子座位での体幹の傾きに対して、アームレストの部分に体幹を支えるクッションを作った。そのことにより脊柱伸展が可能になった。現在の車椅子では動作時に下肢の筋緊張が亢進し両膝関節が伸展し自力では屈曲が困難だったが、新規の車椅子では膝関節が伸展しても徐々に緊張が低下し自然とフットレストへ足底が着いた。  2.座面は現在の車椅子では仙骨部に集中して圧がかかっていたが仮あわせ時点では全体的に分散した。  3.駆動に要する時間に変化はなく、直進の声かけ回数が減少した。  4.食事は時間に変化はなく、食べこぼしが減少した。 【考察】  アームレストや座面に工夫をすることでアライメントの改善が得られた。座面を臀部から大腿部にかけて体形に合わせて削り、股関節屈曲角を増大させたことで支持面が広がり、足底がフットレストに着きやすくなる等の変化があったと考えられる。また、今回Xセンサーを用いることで体重が分散することが確認でき、褥瘡予防に対し検討が可能になった。3.では体幹のアライメント改善のためアームレスト幅を広く設定した結果、正中位で視野を確保しやすくなり直進が可能になったと考えられるが、駆動動作の妨げとなり駆動時間に変化は認められなかった。重症児と呼ばれる人たちは、長年とってきた姿勢とその姿勢で獲得した能力があり、わずかな姿勢の違いによってその能力に差が出ることがある。幸い、今回のケースでは車椅子座位姿勢が改善し、車椅子駆動速度や食事時間も変化なく維持された。食べこぼしや方向付けなど質的な面に関しては改善されているところもある。さらに今後、アームレスト幅や食器の形、高さ、位置など検討することにより、速度が改善する可能性もあると考えられる。このケースを通し、車椅子を作製する際には、姿勢だけでなく能力を発揮できる動作に着目し評価検討を繰り返し行うことが大切であり、そして、より快適な車椅子生活を過ごすことへの第一歩となるであろうと考える。 | 
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| ISSN: | 0915-2032 2423-8899  | 
| DOI: | 10.11496/kyushuptot.2004.0.124.0 |