多系統萎縮症患者の平衡障害に対するストレッチポールの効果について

【はじめに】  多系統萎縮症(Multiple System Atoropy 以下MSA)は、自律神経症状、錐体外路症状、小脳症状が主症状であるが、臨床上互いに他の症状を併有したり、経過的に加わってくることも多い。この疾患の臨床症状の1つとして、平衡障害が見られる。今回、小脳障害症状を中心とするMSA患者にストレッチポール(以下SP)を使用したことにより、平衡障害の改善が見られた症例を経験したので、若干の考察を加えてここに報告する。 【ストレッチポールとは】  SPの素材は、低密度発泡ポリエチレンで、軽量かつ耐久性があり、背中が痛くならない程度の硬さとなっている。長さは98cm、直径は約15c...

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Published in九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 Vol. 2004; p. 40
Main Authors 花田, 智, 稲津, 明美, 関, 一彦
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 九州理学療法士・作業療法士合同学会 2004
Joint Congress of Physical Therapist and Occupational Therapist in Kyushu
Subjects
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ISSN0915-2032
2423-8899
DOI10.11496/kyushuptot.2004.0.40.0

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Summary:【はじめに】  多系統萎縮症(Multiple System Atoropy 以下MSA)は、自律神経症状、錐体外路症状、小脳症状が主症状であるが、臨床上互いに他の症状を併有したり、経過的に加わってくることも多い。この疾患の臨床症状の1つとして、平衡障害が見られる。今回、小脳障害症状を中心とするMSA患者にストレッチポール(以下SP)を使用したことにより、平衡障害の改善が見られた症例を経験したので、若干の考察を加えてここに報告する。 【ストレッチポールとは】  SPの素材は、低密度発泡ポリエチレンで、軽量かつ耐久性があり、背中が痛くならない程度の硬さとなっている。長さは98cm、直径は約15cmの円柱形である。 【症例紹介】  年齢:64歳 性別:男性 診断名:多系統萎縮症 現病歴:H15年6月頃より靴を履こうと片足を上げると、手をつかないといけなくなり、階段も手すりの使用が不可欠となった。その後、徐々に書字・発語障害が生じた。そして、歩行の方もバランスを崩してきた為に平成16年1月30日当院受診。3月4日当院入院となった。MRIより小脳萎縮を認めた。薬剤は、セレジストを使用。意識は清明、頭痛・眩暈等はなかった。MMTは、体幹屈曲と両股・膝関節屈筋群が4と低下を認めた。また、滑動性眼球運動障害、四肢・躯幹失調を認めた。筋緊張は、体幹周囲にて低下し、頸肩部・大腿前面は軽度亢進していた。感覚は、表在・深部共に異常は認めなかった。 【理学療法プログラム】  1.基本姿勢 2.胸部ストレッチ 3.股関節屈曲・外転・外旋運動 4.床磨き運動 5.上肢上方突出運動 6.ニーリフト 7.骨盤前・後傾運動 8.上下肢対角線挙上運動を、腹式呼吸にて呼気時に運動する事に注意して2週間実施した。 【評価方法】  FUJIFILM製のFine Pix1500を用い姿勢評価を行い、重心動揺計マニア社ツイングラビコーダG-6100を閉脚にて使用して、実効値面積(以下RMS.AREA)、動揺平均中心偏位X軸(以下Mean of X)、動揺平均中心偏位Y軸(以下Mean of Y)を測定した。 【結果】  初回姿勢評価は、前額面にて頭部右回旋、右肩甲骨下角下制、体幹右回旋・右側屈。矢状面にて、頭部の前方突出、胸椎後弯・腰椎前弯増加、骨盤前傾を認めた。最終評価にて、それぞれ減少し正中線に近づいた。重心動揺は、RMS.AREAが初期にて開眼1028.6mm2、閉眼3296.2 mm2が、最終にて開眼563.8 mm2、閉眼1306.7 mm2。Mean of Xは、初期にて開眼47.9mm、閉眼41.2mmが、最終にて開眼41.3mm、閉眼33.1mm。Mean of Yは、初期にて開眼-7.8mm、閉眼-13.2mmが、最終にて開眼-4.8mm、閉眼-2.0mmとそれぞれ改善を認めた。また、筋緊張においても頸肩部、大腿前面の亢進が改善された。 【考察】  平衡障害とは、姿勢制御が破綻した状態である。姿勢制御の目的は、重力に対して姿勢を適応させる事と肢節間の位置関係を空間的に整える事であり、身体の重心位置と支持基底面とを適切な位置関係に維持することにある。静的姿勢保持において、常時重心が動揺しており姿勢筋により微調整が行われているが、小脳障害ではそれが困難である。今回、平衡障害が改善した理由として、姿勢を維持する為の適切なアライメントが確保されたためだと考えられる。それにより、重心線が支持基底面のより中央部に投射された為、改善したと判断される。アライメントの改善理由として、SPの特徴である背臥位で脊椎を背側(下方)から支える事で生理的弯曲を軽減する効果、同時に胸郭の荷重からの開放、胸椎後弯の減少、肩甲骨の可動性改善などが簡便かつ確実に得られること、また、SP上に寝ると肩周辺の皮膚表面温度の上昇が確認されており、これより血流の増加、痙性の減弱による筋緊張の低下が認められた為と推測される。骨盤・腰椎に関しては、プログラム3・7により、骨盤後傾・腰椎後弯への動きも再学習され、傾斜角度が改善したと考えた。頭部は、胸椎後弯減少などの頭部以下のアライメントが正中線に近づいてきたことにより、連鎖的に前方突出が改善されてきたと考えた。 【まとめ】  今回、SPを使用し姿勢の変化から平衡障害が改善した症例を経験した。SPは、姿勢の再構築に有効な道具の1つではないかと予想される。静的姿勢保持での姿勢制御に重要な役割を果たす小脳疾患に対して、良姿勢の獲得は特に大切である。MSA患者に対して良姿勢の持続は、転倒予防や、効率の悪い筋出力を避けられ、易疲労性の改善にもつながる。今後は、この得られた静的姿勢をいかに動的姿勢に生かしていくかが重要であり、さらに臨床的検討を重ねていきたい。
ISSN:0915-2032
2423-8899
DOI:10.11496/kyushuptot.2004.0.40.0