Hybrid Assistive Limbと免荷機器併用により歩行能力が向上した左視床出血の一症例

【はじめに】近年、ロボットの臨床応用は進展し、当院でも歩行能力改善や筋力強化を目的に自立支援用下肢タイプ(以下、HAL)を導入している。HALは股・膝関節パワーユニットの駆動により下肢関節運動を支援するが、矢状面でのアシストに留まることから、骨盤挙上下制や左右への重心移動など前額面での動作には、人・物的支援を必要とすることも少なくない。今回、物的支援として2種の免荷装置をHALと併用し歩行練習を実施したところ、重心移動や歩行練習に難渋していた症例にも歩行能力の向上を認めたため報告する。【対象】症例は左視床出血後に右片麻痺を呈した50歳代女性。入院当初は覚醒が低く、発症3か月より免荷機器と長下肢...

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Published in九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 Vol. 2016; p. 228
Main Authors 松尾, 理恵, 西本, 加奈, 井上, 亮子, 本多, 歩美, 黒木, ちひろ, 森山, 祐志, 大木田, 治夫, 菊地, 結貴
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 九州理学療法士・作業療法士合同学会 2016
Joint Congress of Physical Therapist and Occupational Therapist in Kyushu
Subjects
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ISSN0915-2032
2423-8899
DOI10.11496/kyushuptot.2016.0_228

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Summary:【はじめに】近年、ロボットの臨床応用は進展し、当院でも歩行能力改善や筋力強化を目的に自立支援用下肢タイプ(以下、HAL)を導入している。HALは股・膝関節パワーユニットの駆動により下肢関節運動を支援するが、矢状面でのアシストに留まることから、骨盤挙上下制や左右への重心移動など前額面での動作には、人・物的支援を必要とすることも少なくない。今回、物的支援として2種の免荷装置をHALと併用し歩行練習を実施したところ、重心移動や歩行練習に難渋していた症例にも歩行能力の向上を認めたため報告する。【対象】症例は左視床出血後に右片麻痺を呈した50歳代女性。入院当初は覚醒が低く、発症3か月より免荷機器と長下肢装具を使用し起立・歩行練習を開始したが、失語症、注意障害、脱抑制など高次脳機能障害のため指示が入りづらく難渋していた。発症6か月時点では、下肢Brunnstrom recovery stageⅡ、walker-caneと短下肢装具(後方制動)を使用し歩行可能となったが、非麻痺側への重心移動と麻痺側下肢振り出しに中等度の介助を要していた。【方法】A-B-A’シングルケースデザインとし、AとA’期は1日9単位のうち4単位10日間、免荷機器併用下のHAL装着練習を実施した。HAL装着時の歩行量は1回約70m、2~4セットを歩容と内省を参考にHAL設定を適宜変更した。B期は約3週間、HAL非装着にて在宅を想定した移動・階段練習を同時間実施した。A・A’期前後評価は、膝伸展筋力、Timed Up and Go Test(TUG)、Berg Balance Scale(BBS)、平均10m歩行時間、歩数を計測し、経過を観察した。なおA期では免荷機能付き歩行器ALL IN ONEを、A’期では免荷式リフトPOPOの2種を使用した。【結果と考察】A期(A’期)では、10m平均歩行時間は110→106(100→92)秒へ改善し、歩数は61→58(59→55)歩へ減少した。TUGは右回り145→110(114→101)秒、左回り139→121(123→107)秒へ短縮し、BBSは16→29(30→32)点へ改善し、非麻痺側膝伸展筋力は11.0→12.9(10.4→16.1)kgfへ向上した。またB期前後では、著変なく改善を維持していた。A’期終了後には、4点杖と短下肢装具を使用し、家族との歩行が軽介助で可能となった。免荷機器を併用したHAL装着練習は、高次脳機能障害により指示が入りづらく重心移動や歩行練習に難渋していた本症例でも、立位保持や重心移動、歩行練習の難易度を下げたことに繋がり、結果的に下肢の抗重力伸展活動賦活や歩行量確保が図られたと考える。上間らは、「麻痺側へ健側と同様に荷重を求めることは、重心移動を妨げ、歩行速度や歩行効率低下に繋がると推察される」と述べている。本症例もHALと免荷機器の併用により、骨盤挙上や左右への重心移動を容易に誘導でき、より非麻痺側下肢への荷重を促すことが容易となり、加えて非麻痺側荷重での歩行を反復遂行できたことも、歩行能力の向上とバランスの改善に奏功した要因とも考える。またHALの使用対象は、高次脳機能障害や認知能力の低下が認められる者は対象外とされているが、症例を通して高次脳機能障害を有する者でも、HAL装着により歩行能力が改善できる可能性が示唆された。【制約】歩行中に非麻痺側荷重を促すことのでき得る免荷機器についての効果検証は今後の課題である。【倫理的配慮,説明と同意】HAL装着の趣旨と内容は、対象へ説明を十分に行い、書面で同意を得た。
ISSN:0915-2032
2423-8899
DOI:10.11496/kyushuptot.2016.0_228