脳卒中片麻痺患者の肩関節痛における臨床検査と画像診断の経時的変化

【はじめに】  脳卒中片麻痺患者の肩関節痛は報告者によって5~84%と一定の見解は得られておらず,原因については肩関節周囲炎や亜脱臼,腱板断裂,中枢性疼痛,肩手症候群等が挙げられるが不明な点が多い.またMRI等,画像診断を用いて縦断的に行われている研究は少ない.今回脳卒中発症後,肩関節痛に関して3ヶ月,6ヶ月と経時的に画像診断と臨床検査を行ったので報告する. 【対象・方法】  本研究は当院倫理委員会の承認を得て実施した.対象は,平成21年12月から平成23年2月までの間に当院に入院した者とした.取り込み基準は脳卒中発症が初回の者,JCSI-3以上の者,言語的・非言語的に意思表示ができる者,研究...

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Published in九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 Vol. 2011; p. 8
Main Authors 貞清, 衣津子, 宮崎, 剛, 村木, 敏子, 井手, 晴美, 馬場, 孝祐, 一ノ瀬, 拓郎, 橋岡, 恵子, 伊藤, 一也, 秋山, 寛治
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 九州理学療法士・作業療法士合同学会 2011
Joint Congress of Physical Therapist and Occupational Therapist in Kyushu
Subjects
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ISSN0915-2032
2423-8899
DOI10.11496/kyushuptot.2011.0.8.0

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Summary:【はじめに】  脳卒中片麻痺患者の肩関節痛は報告者によって5~84%と一定の見解は得られておらず,原因については肩関節周囲炎や亜脱臼,腱板断裂,中枢性疼痛,肩手症候群等が挙げられるが不明な点が多い.またMRI等,画像診断を用いて縦断的に行われている研究は少ない.今回脳卒中発症後,肩関節痛に関して3ヶ月,6ヶ月と経時的に画像診断と臨床検査を行ったので報告する. 【対象・方法】  本研究は当院倫理委員会の承認を得て実施した.対象は,平成21年12月から平成23年2月までの間に当院に入院した者とした.取り込み基準は脳卒中発症が初回の者,JCSI-3以上の者,言語的・非言語的に意思表示ができる者,研究の趣旨を理解し,ヘルシンキ宣言に基づき作成された同意書により同意が得られた者とした.除外基準は研究の主旨が理解できない者,既往に肩関節疾患がある者とした.今回は条件を満たし,脳卒中発症後3ヶ月,6ヶ月時に経過を追えた10例を対象とした. 評価項目は,画像診断として肩関節MRI,XP検査,臨床検査として,肩関節可動域,Numerical Rating Scaleを用いた肩関節の運動時痛・安静時痛・圧痛・夜間痛を調べた.MRI評価は整形外科及び放射線科の2名の医師で行った.XP検査においては3名のOTにより肩峰骨頭間距離(AHI)をSynapse (FUJIFILM Mediccal Systems)を用いて計測し,3名の平均を測定値とした.統計解析はピアソンの相関係数を用いた. 【結果】  検査は脳卒中発症後平均91.2±10.7日時点と平均180.8±7.9日時点に行った.対象者は平均年齢66.4±14.4歳(男性7例,女性3例)であった.肩関節可動域において運動時痛と自動外旋可動域(r=-0.71)及び他動外旋可動域(r=-0.75)との間にそれぞれ高い相関を得た.AHIにおいて3ヶ月平均16.8±8.7mm,6ヶ月平均14.6±5.2mmであり,3ヶ月時では運動時痛と中程度の相関がみられた(r=0.62).また, 3ヶ月時のAHIと自動外旋可動域(r=-0.64)及び他動外旋可動域(r=-0.82)において相関を得た.MRI所見では上腕二頭筋長頭腱炎を主とする何らかの異常所見が全例の麻痺側,非麻痺側に認められた. 【考察】  片麻痺患者の緊張典型例は,内転,内旋位であり外旋制限をきたし易く,その要因の一つに大胸筋の筋緊張の影響が考えられる.尚且つ大胸筋はその走行から上腕骨骨頭を下方へ引き下げる力を有することからAHIの拡大への影響も考えられる.我々の研究において,1]外旋可動域の改善と運動痛減少,2]3ヶ月時のAHI拡大と運動時痛の関連性,3]3ヶ月時のAHI拡大と外旋可動域の制限が確認できた.またMRI所見では時期や麻痺側・非麻痺側に関わらず上腕二頭筋長頭腱炎を主とする異常所見は全例に認められた.これらのことから,片麻痺患者の肩関節痛は麻痺による直接的影響とは捉え難く,肩周囲筋群の異常緊張により,従来無症候性に持っている軟部組織の加齢変化が痛みとして顕在化する可能性が示唆された.よって片麻痺患者の肩関節痛に対する予防策として,急性期からの上肢ポジショニングや軟部組織由来の疼痛に対する対応が必要であると考える.
Bibliography:008
ISSN:0915-2032
2423-8899
DOI:10.11496/kyushuptot.2011.0.8.0