脊髄損傷不全麻痺者に対しロボットスーツHALを用いた治療効果の検証

【目的】近年、脊髄損傷不全麻痺者を対象にロボット技術を用いた様々な歩行練習の試みがなされており、ロボットスーツHAL(以下HAL)を用いた臨床研究では歩行速度や歩行能力の向上(長谷川2014、吉川2014)など歩行支援に対する有用性が報告されている。今回、痙縮の増悪によりバランス能力や歩行能力が低下した脊髄損傷不全麻痺者に対しHALの治療効果を検証したのでここに報告する。【方法】症例は60歳代男性で、平成X年に頸髄損傷を受傷し同年C3/4CPS+C5/6椎弓形成術を施行した。金属支柱付き短下肢装具(AFO)とロフストランド杖を使用した歩行が自立していたが、術後約140日目以降より身体機能・歩行...

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Published in九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 Vol. 2016; p. 24
Main Authors 慶田元, 真希, 榎畑, 純二, 新保, 千尋, 福田, 秀文, 児玉, 興仁, 松田, 友秋
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 九州理学療法士・作業療法士合同学会 2016
Joint Congress of Physical Therapist and Occupational Therapist in Kyushu
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ISSN0915-2032
2423-8899
DOI10.11496/kyushuptot.2016.0_24

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Summary:【目的】近年、脊髄損傷不全麻痺者を対象にロボット技術を用いた様々な歩行練習の試みがなされており、ロボットスーツHAL(以下HAL)を用いた臨床研究では歩行速度や歩行能力の向上(長谷川2014、吉川2014)など歩行支援に対する有用性が報告されている。今回、痙縮の増悪によりバランス能力や歩行能力が低下した脊髄損傷不全麻痺者に対しHALの治療効果を検証したのでここに報告する。【方法】症例は60歳代男性で、平成X年に頸髄損傷を受傷し同年C3/4CPS+C5/6椎弓形成術を施行した。金属支柱付き短下肢装具(AFO)とロフストランド杖を使用した歩行が自立していたが、術後約140日目以降より身体機能・歩行能力の改善が乏しかった。そこで術後169日目よりHALを用いた歩行練習(以下HAL歩行練習)を開始した。実施期間は2週間(週3回の頻度)とし、通常理学療法と併用して実施した。実施内容に関して、通常理学療法実施日は促通反復療法、床上動作、階段昇降練習を40分、歩行練習(AFOとロフストランド杖使用)を20分実施した。HAL歩行練習日は、通常理学療法日の歩行練習20分でHAL歩行練習(AFOと歩行器使用)を実施した。理学療法評価としてAmerican Spinal Injury Association(ASIA)下肢スコア、manual muscle test(MMT)、Modified Ashworth Scale(MAS)、Functional Balance Scale(FBS)、10m歩行時間(最大努力時)、歩行率、2分間歩行試験をHAL歩行訓練開始前と6回実施後(最終)に実施した。【結果】HAL開始前と比較し最終で改善した項目はMAS(右/左で表記)の膝関節(開始前1+/2、最終1/1+)、足関節(開始前2/3、最終1+/2)、内転筋(MASマニュアルに準じて評価。開始前3/3、最終2/2)、FBS(開始前42点、最終52点)、10m歩行時間(開始前15.8秒、最終14.7秒)、歩行率(開始前115.4step/min、最終120.8step/min)2分間歩行試験(開始前60m、最終71m)であった。一方でASIA下肢スコア(42点)とMMT(右/左で表記:腸腰筋5/2、中殿筋5/3、大腿四頭筋5/4、ハムストリングス5/3、前脛骨筋5/4、下腿三頭筋4/4)は開始前後で変化はみられなかった。歩行観察では、HAL開始前にみられた股関節内転筋の痙縮に伴うはさみ足歩行と体幹側方動揺が最終時に軽減し、左右対称性の向上を認めた。【考察】今回の結果から、HAL歩行練習後に痙縮、バランス能力、歩行能力の改善が得られた。本症例は、歩行時に左股関節内転筋群の痙縮がみられ、歩行距離が伸びるとともに痙縮の増悪を認めていた。この痙縮の増悪がバランス能力に悪影響を及ぼし、歩行能力が低下していた。HALは生体電位信号を読み取ることで装着者の動作に合わせ適切な運動を支援し、装着者の能力に合わせて設定することが可能である。またHALの運動効果として、立脚期・遊脚期のそれぞれをアシストする制御機構が左右の非対称性を改善することが報告されている(吉川2014)。以上の事より、本症例も歩行時の適切な筋活動をHALにより支援、促通できたことが改善に至った要因ではないかと考える。【まとめ】今回、脊髄損傷不全麻痺者に対しHALを用いた歩行練習を実施した。HALの使用により歩行時の適切な筋活動をアシストすることができ、歩行時の痙縮、歩行能力、バランス能力の改善が得ることができたと考える。今回は短期間での検討であったが、今後は長期的な効果検証を行っていく事が必要と考える。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は当院倫理審査委員会の承認を得た上で実施した(平成28年1月27日)。研究に際し、本人にHALの概要を含む治療の説明と治療データの使用許可を説明し、署名による同意を得た。また、本研究において開示すべき利益相反はない。
ISSN:0915-2032
2423-8899
DOI:10.11496/kyushuptot.2016.0_24