術後に発症する低酸素血症に対する術中因子の検討 晶質液投与量の影響
術後の呼吸器合併症は患者予後を左右する.手術中は人工呼吸による陽圧換気で肺は障害を受けやすく,それ以外でも術後に呼吸器合併症を引き起こす原因にはさまざまなものがある.全身麻酔下に手術を受けた患者を対象として,術後低酸素血症の発症に影響を及ぼすと考えられる誘因を解析し,その予測因子を検討した.本研究は昭和大学横浜市北部病院臨床試験審査委員会の承認を受け,後ろ向きに調査を行った.2017年1月1日から2017年5月31日までに当院消化器センターの手術を全身麻酔下で受けた成人患者のうち,術後ICUに入室した患者を対象とした.患者カルテから性別,ASA分類,年齢,身長,体重,BMI,緊急手術の有無,腹...
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Published in | 昭和学士会雑誌 Vol. 79; no. 6; pp. 765 - 771 |
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Main Authors | , , , , , |
Format | Journal Article |
Language | Japanese |
Published |
昭和大学学士会
2020
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Subjects | |
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ISSN | 2187-719X 2188-529X |
DOI | 10.14930/jshowaunivsoc.79.765 |
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Summary: | 術後の呼吸器合併症は患者予後を左右する.手術中は人工呼吸による陽圧換気で肺は障害を受けやすく,それ以外でも術後に呼吸器合併症を引き起こす原因にはさまざまなものがある.全身麻酔下に手術を受けた患者を対象として,術後低酸素血症の発症に影響を及ぼすと考えられる誘因を解析し,その予測因子を検討した.本研究は昭和大学横浜市北部病院臨床試験審査委員会の承認を受け,後ろ向きに調査を行った.2017年1月1日から2017年5月31日までに当院消化器センターの手術を全身麻酔下で受けた成人患者のうち,術後ICUに入室した患者を対象とした.患者カルテから性別,ASA分類,年齢,身長,体重,BMI,緊急手術の有無,腹腔鏡の有無,手術部位,全身麻酔薬の種類,神経ブロックの有無,レミフェンタニル使用量,手術時間,麻酔時間,出血量,尿量,輸血の有無およびその総量,輸液量,輸血と輸液の総量,In-out balance,ヘモグロビン値,アルブミン値,心胸郭比(CTR),PaO2/FiO2(P/F)比,ICUでの人工呼吸の有無を調べた.P/F比が300以下のものを術後低酸素血症と定義し,P/F比が300以上を正常群,300以下を低酸素血症群とした.多重ロジスティック回帰分析を行い,P/F比が300以下をもたらす因子を統計的に抽出した.調査した期間中に当院消化器センターで全身麻酔下に手術を受けた成人患者は418名で,術後にICUに入室した患者は164名であった.すべての測定項目を満たした150名を対象に解析した.正常群と低酸素血症群との群間比較では,正常群は150名のうち138名でP/F比は平均497±119,低酸素血症群は12名でP/F比は平均270±34であった.抽出項目のうち,単変量解析でP<0.25となった因子を共変数として多重ロジスティック回帰分析を行った結果,P/F比が300以下となるには晶質液の投与量(オッズ比2.304,95%信頼区間1.052-5.048,P値0.037)のみが有意な予測因子となった.術後,人工呼吸が必要になった患者は150名中3名であり,正常群では138名1名,低酸素血症群では12名2名であり群間差を認めた(P<0.05).今回,全身麻酔下の消化器外科手術において術後低酸素血症の発症に影響を及ぼす術中因子を検討した.晶質液の過量投与は術後の低酸素症の発生に最も影響を及ぼす因子であることが示唆された.これまでの輸液療法は,不足分を補充するという概念を基に成り立ってきた.サードスペース,不感蒸泄,その他の不足分を計算して速度を基に十分な輸液が推奨されてきた.しかし,手術時間が延長すると総輸液量は過量となり,術後に遷延する水分貯留を招くことになる.本研究結果から,消化器外科手術では晶質液の過量投与を防ぐことが術後の呼吸器系合併症を減らすと示された. |
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ISSN: | 2187-719X 2188-529X |
DOI: | 10.14930/jshowaunivsoc.79.765 |