認知症の周辺症状に対する薬物療法

1996年に国際老年精神医学会は, 抑うつ, 意欲障害, 不安, 焦燥, 幻覚, 妄想, 脱抑制, 昼夜逆転, 徘徊, 易怒, 介護への抵抗, 暴言などの精神症状に対して Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia (BPSD) という用語を用いることを提唱した. 認知症において従来研究者が注目してきたのは主として中核症状であるが, 実際患者を介護する家族にとって最も深刻な問題となるのはこのBPSDである. BPSDに対しては通常抗精神病薬が使用されてきたが, 抗精神病薬の使用は, 誤嚥性肺炎や転倒のリスクを上げADLを阻害するため慎重な...

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Published in日本老年医学会雑誌 Vol. 43; no. 5; pp. 549 - 553
Main Author 荒井, 啓行
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 一般社団法人 日本老年医学会 25.09.2006
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ISSN0300-9173
DOI10.3143/geriatrics.43.549

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Summary:1996年に国際老年精神医学会は, 抑うつ, 意欲障害, 不安, 焦燥, 幻覚, 妄想, 脱抑制, 昼夜逆転, 徘徊, 易怒, 介護への抵抗, 暴言などの精神症状に対して Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia (BPSD) という用語を用いることを提唱した. 認知症において従来研究者が注目してきたのは主として中核症状であるが, 実際患者を介護する家族にとって最も深刻な問題となるのはこのBPSDである. BPSDに対しては通常抗精神病薬が使用されてきたが, 抗精神病薬の使用は, 誤嚥性肺炎や転倒のリスクを上げADLを阻害するため慎重な使用が望まれる. 一昨年米国FDAから, 認知症性高齢者には非定型抗精神病薬の使用は心不全や肺炎のリスクを上げるため使用を控えるよう勧告が出され, 現場には混乱をもたらしている. 我々は最近, BPSDに対する漢方方剤である抑肝散の効果を明らかにした. とくに, 幻視を中心とするBPSDを特徴とするレビー小体病にはこれまで有効な西洋薬がなかった. 抑肝散はレビー小体病に用いられる唯一安全で有効な治療薬として, 今後第1選択薬となる可能性がある. また, 西洋医学で発展・確立された評価スケールを大胆に活用することで, 西洋医学の薬も東洋医学の薬も全く同じ土俵の上で対等に評価可能となることが示された.
ISSN:0300-9173
DOI:10.3143/geriatrics.43.549