胸郭拡張性と麻痺側下肢の振り出しについて

【目的】 脳卒中片麻痺患者の歩行で、麻痺側下肢振り出しを体幹側屈・骨盤挙上を用いて骨盤後傾位で固定させた代償動作で遂行し、その結果麻痺側胸郭は固くなることが多い。過去の研究においても、片麻痺患者の麻痺側胸郭拡張性が低下すると報告されている。柿崎らは下部体幹の安定化が深呼吸時の脊柱の可動性を高め、胸郭の可動性の向上を引き起こすとしている。そこで胸郭の拡張性を高めることにより、下部体幹の安定化を促し、骨盤-股関節を分離させた麻痺側下肢の振り出しが可能になると考えた。今回、麻痺側胸郭拡張性の増大を目的とした呼吸介助手技(以下呼吸介助)を実施し、麻痺側下肢の振り出し動作が改善した症例を報告する。 【方...

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Published in関東甲信越ブロック理学療法士学会 Vol. 30; p. 327
Main Authors 加藤, 太郎, 山本, 幸弘
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会 2011
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ISSN0916-9946
2187-123X
DOI10.14901/ptkanbloc.30.0.327.0

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Summary:【目的】 脳卒中片麻痺患者の歩行で、麻痺側下肢振り出しを体幹側屈・骨盤挙上を用いて骨盤後傾位で固定させた代償動作で遂行し、その結果麻痺側胸郭は固くなることが多い。過去の研究においても、片麻痺患者の麻痺側胸郭拡張性が低下すると報告されている。柿崎らは下部体幹の安定化が深呼吸時の脊柱の可動性を高め、胸郭の可動性の向上を引き起こすとしている。そこで胸郭の拡張性を高めることにより、下部体幹の安定化を促し、骨盤-股関節を分離させた麻痺側下肢の振り出しが可能になると考えた。今回、麻痺側胸郭拡張性の増大を目的とした呼吸介助手技(以下呼吸介助)を実施し、麻痺側下肢の振り出し動作が改善した症例を報告する。 【方法】 症例はクモ膜下出血と診断され右片麻痺を呈した50歳代男性。検証は発症後6週目に行った。検証当日の身体所見はBRS上肢III、手指V、下肢IIIであった。方法は呼吸介助を麻痺側胸郭に施行し、その前後でテープメジャーによる胸郭可動性評価法、腹部触診、歩行の変化を比較した。胸郭可動性評価法は、測定部位を腋窩線上、乳頭線上、剣状突起下端線上、第10肋骨部線上とし、各部位での最大吸息、最大呼息の周囲径を計測し、その差を胸郭拡張差として表した。腹部触診は背臥位にてへそ引きを行い、腹横筋の収縮力の左右差を触診した。歩行は平行棒内で(5m)実施し、麻痺側振り出し時つま先の引っかかり回数を計測した。 【結果】 胸郭拡張差は腋窩線上で3.5cmから3.5cm、乳頭線上で3.0cmから3.5cm、剣状突起下端線上で4.2cmから4.7cm、第10肋骨部線上で4.0cmから6.8cmと変化を認めた。腹部触診は、麻痺側収縮力が呼吸介助後に増加し左右差が減少した。歩行時つま先のひっかかり回数は5回から2回に減少した。 【考察】 骨盤-股関節を分離させた麻痺側股関節屈曲を行う為には、体幹の安定性向上は重要である。麻痺側胸郭拡張性を高めることで、姿勢不良が改善し体幹安定性が向上すると考えた。今回麻痺側呼吸介助を行い、麻痺側胸郭拡張性の向上が認められた。胸郭拡張性の左右差軽減により、姿勢が正中化されることで下部体幹の筋緊張が正常に近づき、local muscleが働きやすくなったと考える。腸骨筋と腹横筋は連結しているという報告があり、本症例は腹横筋が作用しやすくなり、体幹での姿勢制御が容易になった。そのため腸骨筋が働きやすくなり、骨盤-股関節を分離させた麻痺側股関節屈曲が可能となり、つま先のひっかかり回数が減少したと考える。
Bibliography:PF2-6-046
ISSN:0916-9946
2187-123X
DOI:10.14901/ptkanbloc.30.0.327.0