Horner症候群を合併した小児咽後膿瘍の1例

Horner症候群(Horner syndrome:HS)は縮瞳,眼裂狭小,発汗障害を三主徴とする眼交感神経障害である.小児の咽後膿瘍は実臨床で遭遇することがあるが,HSを呈することは稀である.今回,3歳11か月の女児で咽後膿瘍に合併したHSの1例を経験したので文献的考察とともに報告する.患児は当院初診10日前から右側頸部痛があり,5日前から39.6度の発熱があった.1日前より眼瞼下垂が出現した.頸部造影CT検査でC1-6のレベルに直径約30mmの辺縁が不整で増強効果を伴う低吸収域を認め,咽後膿瘍の診断で入院となった.同日よりAmpicillin/Sulbactam(ABPC/SBT)の投与を...

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Published in昭和学士会雑誌 Vol. 84; no. 3; pp. 259 - 265
Main Authors 奥澤, 奈緒, 平野, 康次郎, 竹内, 美緒, 崎川, 彩, 大谷, 友里恵, 嶋根, 俊和, 溝上, 雄大, 古川, 傑
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 昭和大学学士会 2024
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ISSN2187-719X
2188-529X
DOI10.14930/jshowaunivsoc.84.259

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Summary:Horner症候群(Horner syndrome:HS)は縮瞳,眼裂狭小,発汗障害を三主徴とする眼交感神経障害である.小児の咽後膿瘍は実臨床で遭遇することがあるが,HSを呈することは稀である.今回,3歳11か月の女児で咽後膿瘍に合併したHSの1例を経験したので文献的考察とともに報告する.患児は当院初診10日前から右側頸部痛があり,5日前から39.6度の発熱があった.1日前より眼瞼下垂が出現した.頸部造影CT検査でC1-6のレベルに直径約30mmの辺縁が不整で増強効果を伴う低吸収域を認め,咽後膿瘍の診断で入院となった.同日よりAmpicillin/Sulbactam(ABPC/SBT)の投与を開始した.第3病日に咽後膿瘍切開排膿術を施行した.術翌日に眼瞼下垂は改善した.その後も経過は良好で,第8病日に施行した造影CT検査で膿瘍は消失し,第9病日に自宅退院となった.眼交感神経路は3つのニューロンからなる.第1ニューロン(First order neuron:FON)は視床下部から脳幹・延髄を経て網様体を下降し,第8頸髄〜第2胸髄に存在する毛様体脊髄中枢で第2ニューロン(Second order neuron:SON)のシナプスを形成する.SONの節後線維は第8頸髄〜第2胸髄の腹側脊髄根から出て頸動脈鞘を上行し上頸神経節でシナプスを形成する.上頸神経節からの第3ニューロン(Third order neuron:TON)の節後線維は内頸動脈と外頸動脈に沿って二枝に分かれて走行し,前者(内頸動脈神経叢)は内頸動脈に沿って上行し,海綿静脈洞に入り,上眼窩裂を通ってミュラー筋,瞳孔の散大筋を神経支配する.後者(外頸動脈神経叢)は外頸動脈と内側上顎動脈に沿って上行し顔面・頸部の発汗や血管収縮を支配する.本症例では内頸動脈神経叢での障害が眼裂狭小を引き起こし,外頸動脈神経叢は保たれていたため発汗障害を認めなかったと考えられる.咽後膿瘍からHSを発症する症例は稀であるが存在することを念頭におき,神経症状を評価することが重要である.
ISSN:2187-719X
2188-529X
DOI:10.14930/jshowaunivsoc.84.259