西部北太平洋亜寒帯域における栄養塩の長期変動と低次生態系

近年,植物プランクトン生物量が最近約100年間に全球規模で減少し,温暖化に伴う成層化による表層栄養塩の減少が要因であるとした論文が発表され,多いに議論を呼んだ.一方北太平洋では,観測された栄養塩の鉛直分布の長期変動は成層化による影響だけでは説明できず,生物過程の変化や水塊の鉛直・水平混合率の変化の影響を考慮する必要があることが指摘されている.また,低次生態系の長期変動や将来予測研究によれば,成層強化に伴う光環境の改善が亜寒帯では植物プランクトン生物量の増加に繫がること,また同様に成層強化による春季ブルームの早期化により二次生産者や高次生産者の生物量が増加し得ること等,栄養塩減少と水産資源の低下...

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Published in沿岸海洋研究 Vol. 52; no. 1; pp. 59 - 65
Main Authors 小埜, 恒夫, 千葉, 早苗
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本海洋学会 沿岸海洋研究会 2014
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ISSN1342-2758
2434-4036
DOI10.32142/engankaiyo.52.1_59

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Summary:近年,植物プランクトン生物量が最近約100年間に全球規模で減少し,温暖化に伴う成層化による表層栄養塩の減少が要因であるとした論文が発表され,多いに議論を呼んだ.一方北太平洋では,観測された栄養塩の鉛直分布の長期変動は成層化による影響だけでは説明できず,生物過程の変化や水塊の鉛直・水平混合率の変化の影響を考慮する必要があることが指摘されている.また,低次生態系の長期変動や将来予測研究によれば,成層強化に伴う光環境の改善が亜寒帯では植物プランクトン生物量の増加に繫がること,また同様に成層強化による春季ブルームの早期化により二次生産者や高次生産者の生物量が増加し得ること等,栄養塩減少と水産資源の低下が必ずしも密接に連動しないことが示唆されている.以上のことから,温暖化による海洋生物生産力の低下というシナリオには,広く認識されているよりも遥かに複雑な過程が含まれており,現実的な将来予測のためにはより詳細なメカニズムの検証が必要であることが示唆される.
ISSN:1342-2758
2434-4036
DOI:10.32142/engankaiyo.52.1_59