二者間でのほめに対するずれを探る:大人と児童,児童同士の比較を通して

ほめとは,自尊感情や動機づけ,ほめ手が期待する行動を促進する効果があることから,教師や保護者などは子どもを積極的にほめようとする。しかし,ほめは必ずしも良い効果をもたらすわけではない。その1つの要因として,ほめはコミュニケーションの1つの手段であることが挙げられる。先行研究から,ほめ手と受け手の間にほめへのずれがある可能性が示されているが,ある特定のコミュニケーション場面に対してほめ手・受け手の両者の立場から捉えた研究は少ない。本研究では,大学生,小学生をほめ手,小学生を受け手とした質問紙調査を実施し,どのような場面で両者にほめへのずれが生じるのか,課題の難易度や児童の得意不得意,児童の発達段...

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Published in発達心理学研究 Vol. 36; no. 2; pp. 83 - 94
Main Authors 柳岡, 開地, 埜田, つみ綺
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 一般社団法人 日本発達心理学会 20.06.2025
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ISSN0915-9029
2187-9346
DOI10.11201/jjdp.36.0111

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Summary:ほめとは,自尊感情や動機づけ,ほめ手が期待する行動を促進する効果があることから,教師や保護者などは子どもを積極的にほめようとする。しかし,ほめは必ずしも良い効果をもたらすわけではない。その1つの要因として,ほめはコミュニケーションの1つの手段であることが挙げられる。先行研究から,ほめ手と受け手の間にほめへのずれがある可能性が示されているが,ある特定のコミュニケーション場面に対してほめ手・受け手の両者の立場から捉えた研究は少ない。本研究では,大学生,小学生をほめ手,小学生を受け手とした質問紙調査を実施し,どのような場面で両者にほめへのずれが生じるのか,課題の難易度や児童の得意不得意,児童の発達段階との関連から検討した。その結果,難易度が高いことに成功した場合は,得意不得意にかかわらずほめること,ほめられることを強く望んでいた。一方,難易度が低いことに成功した場合は,大学生と小学生のほめ手は児童が不得意なときにほめやすく,小学生の受け手は自身が得意なときにほめられたいと望んでいることが示された。ここから,課題の難易度が低い場面において,ほめ手と受け手との間にほめへのずれが生じている可能性が明らかになり,教師が児童をほめる際や,指導の手立てとして児童同士のほめを取り扱う際は,受け手である児童のほめの捉え方について配慮する必要性が示唆された。【インパクト】本研究は,大人が子どもをほめる場面に対し,ほめ手が予想するほめへの反応と受け手の実際のほめへの認知にずれがあることを明らかにした点にインパクトがある。また,大人と子どもだけではなく,子ども同士でのほめについて着目した点に独創性がある。本研究の知見は,教育現場でよく見られるほめについて,行動変容などの手段としてのみ捉えるのではなく,対人相互のコミュニケーションとして捉える重要性を示唆している。
ISSN:0915-9029
2187-9346
DOI:10.11201/jjdp.36.0111