農村地域におけるがんの特性に関する臨床・病理・疫学的研究

農村地域における癌の特性を探る目的で, 典型的な農村地域に存在する病院と, 大都市に存在するほぼ同規模の病院において, 病理学的に診断された悪性腫瘍症例に関して臨床・病理・疫学的に比較検討を行った.全症例数は都市病院の方が約20%多いが, 臓器別にみると胃癌, 前立腺癌は農村病院が多く, 肺癌, 白血病および子宮癌は都市病院の方が多い.大腸癌, 乳癌, 卵巣癌および悪性リンパ腫においてはほとんど差がみられない.平均年齢は農村病院が明らかに高く, 人口構成における老齢化率の上昇が農村地域において際だっていることを反映している.このことは前立腺癌症例数あるいは胃癌における分化型 (高齢者型) の比...

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Published in昭和医学会雑誌 Vol. 50; no. 2; pp. 176 - 186
Main Authors 夏川, 周介, 塩川, 章, 田代, 浩二
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 昭和大学学士会 1990
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ISSN0037-4342
2185-0976
DOI10.14930/jsma1939.50.176

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Summary:農村地域における癌の特性を探る目的で, 典型的な農村地域に存在する病院と, 大都市に存在するほぼ同規模の病院において, 病理学的に診断された悪性腫瘍症例に関して臨床・病理・疫学的に比較検討を行った.全症例数は都市病院の方が約20%多いが, 臓器別にみると胃癌, 前立腺癌は農村病院が多く, 肺癌, 白血病および子宮癌は都市病院の方が多い.大腸癌, 乳癌, 卵巣癌および悪性リンパ腫においてはほとんど差がみられない.平均年齢は農村病院が明らかに高く, 人口構成における老齢化率の上昇が農村地域において際だっていることを反映している.このことは前立腺癌症例数あるいは胃癌における分化型 (高齢者型) の比率が農村病院に高いことによっても裏づけられる.しかし胃癌では早期癌の比率も農村病院の方が高いことは, 単に疾病構造の差のみならず検診・予防活動に対する施設の医療体制の相違が関与していると考えられた.環境的因子の影響がもっとも考えられる肺癌においては大気汚染, 喫煙状況などの疫学的差異が都市と農村において明らかであることが示唆された.近年増加の著しい大腸癌において両施設問に差がみられないことは食生活における地域差縮少と欧米化によるものと考えられる.全体的に確然とした差が認められないのは生活環境・習慣の地域差縮小が進んでいることを示唆するものであろう.
ISSN:0037-4342
2185-0976
DOI:10.14930/jsma1939.50.176