血液透析患者の凝固亢進と血管内皮障害に及ぼす非分画ヘパリンの病因的意義

血液透析 (HD) 患者の凝固, 線溶系の異常及び内皮細胞の障害に対する体外循環用抗凝固薬の影響を明らかにする目的で以下の検討を行なった.安定期HD患者13例を対象に, 抗凝固薬を無作為に従来のヘパリン (OH) あるいは低分子ヘパリン (LH) 使用群に分け, 8ヵ月間HDを行ない, 凝固, 線溶, 血管内皮細胞機能の指標変化を検討した.試験期間中の薬剤投与量は体外循環路内の残血, 凝血を防止し得る最低投与量とし, 結果として1治療当たりOHでは95±19U/kg, LHでは38±71U/kgと投与量はLHで有意の低値であった.HD開始1時間後の血漿中抗Xa活性はLH群で, OH群に比し高く...

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Published in昭和医学会雑誌 Vol. 53; no. 6; pp. 529 - 536
Main Author 金森, 直明
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 昭和大学学士会 1993
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ISSN0037-4342
2185-0976
DOI10.14930/jsma1939.53.529

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Summary:血液透析 (HD) 患者の凝固, 線溶系の異常及び内皮細胞の障害に対する体外循環用抗凝固薬の影響を明らかにする目的で以下の検討を行なった.安定期HD患者13例を対象に, 抗凝固薬を無作為に従来のヘパリン (OH) あるいは低分子ヘパリン (LH) 使用群に分け, 8ヵ月間HDを行ない, 凝固, 線溶, 血管内皮細胞機能の指標変化を検討した.試験期間中の薬剤投与量は体外循環路内の残血, 凝血を防止し得る最低投与量とし, 結果として1治療当たりOHでは95±19U/kg, LHでは38±71U/kgと投与量はLHで有意の低値であった.HD開始1時間後の血漿中抗Xa活性はLH群で, OH群に比し高く, 終了時は両群間で差はなかった.APTTの延長はHD開始1時間後ではLH群で軽度の傾向にあり, 終了時はOH群に比しその延長は有意に軽度で, LH群ではHD前値に復していた.AT-III抗原量, 活性は試験開始時健常対照群と有意差はなく, OH, LH両群とも試験期間中変化はみられなかった.凝固系セリンプロテアーゼと結合したtotalのAT-IIIを表すmodified AT-IIIは, 凝固亢進を反映する新しいマーカーとして注目されているが, 試験開始時には両群とも健常対照群に比し有意の高値を示した.試験開始後の経過ではLH群で2カ月後より低下, 正常化したのに対し, OH群では有意な変動はなく, 4カ月以降LH群でOH群に比し有意の低値を維持した.線溶亢進状態を反映して試験開始時, 高値だったPICは, OH群では有意な変動はみられなかった.LH群では1, 4, 5カ月で開始時に比し有意に低下, 両群の変化率の比較でもLHで低下率は有意に大きかった.第VIII因子活性, 第VIII因子様抗原量, vW因子活性, TATは試験開始時, いずれも健常対照群に比し高値であったが, これらの因子には試験期間中, 両群とも有意な変動はなく, 両群間にも有意差は認められなかった.血管内皮マーカーであるトロンボモジュリン, エンドセリンは試験開始時両群とも健常対照群に比し高値だったが, 試験期間中, 両者とも有意な変動はみられず, 変化率にも両群間で差は認められなかった.以上より, LHの使用により, HD患者の凝固亢進状態の一部が改善し, その結果として線溶亢進も一部是正される可能性が示され, 透析用凝固薬として長年使用されてきたOHの凝固線溶系に及ぼす病因的意義の一端が解明された.
ISSN:0037-4342
2185-0976
DOI:10.14930/jsma1939.53.529