地域間介護給付水準の収束仮説の検証

本稿では、厚生労働省『介護保険事業状況報告』2000-12年度都道府県別パネルデータを用い、地域間介護保険給付水準(被保険者1人あたり単位数、利用者1人あたり単位数)が収束しているかを、地域特性等をコントロールすることが可能な条件付きβ収束の手法により検証した。介護保険制度には医療保険制度同様に地域間でサービス量、保険料等が大きく異なることが知られている。しかし、その分析の多くは記述統計による比較に留まっており、統計的な分析は行われていない。本稿では、介護保険給付水準の地域差を条件付きβ収束という計量経済学の枠組みで分析を行う。条件付きβ収束とは1人あたり変数が、その定常状態と比べより低い国・...

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Published in医療経済研究 Vol. 27; no. 2; pp. 100 - 116
Main Author 松岡, 佑和
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 医療経済学会/医療経済研究機構 31.03.2016
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ISSN1340-895X
2759-4017
DOI10.24742/jhep.2015.07

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Summary:本稿では、厚生労働省『介護保険事業状況報告』2000-12年度都道府県別パネルデータを用い、地域間介護保険給付水準(被保険者1人あたり単位数、利用者1人あたり単位数)が収束しているかを、地域特性等をコントロールすることが可能な条件付きβ収束の手法により検証した。介護保険制度には医療保険制度同様に地域間でサービス量、保険料等が大きく異なることが知られている。しかし、その分析の多くは記述統計による比較に留まっており、統計的な分析は行われていない。本稿では、介護保険給付水準の地域差を条件付きβ収束という計量経済学の枠組みで分析を行う。条件付きβ収束とは1人あたり変数が、その定常状態と比べより低い国・地域であるほど、(高い国・地域と比べ)より高い成長率(増加率)を上げるという収束過程である。介護保険制度浸透に伴い、介護保険サービスの整備が低水準、利用が非積極的だった地域において、施設整備が行われ積極的な利用が行なわれているかを検証した。また山内(2009)等の研究結果を踏まえ、近隣都道府県との空間的自己相関を考慮したモデルにより推定を行った。推定の結果、全ての1人あたり介護給付水準(合計・サービス別)において、パネルデータを用いた最尤法推定からβ収束を確認した。また一部の介護給付水準増加率には近隣都道府県との空間的自己相関の存在も確認した。β収束は介護保険制度初期(2000-05年)の方が2006年以降と比べ若干速く、空間的自己相関は2006年以降の方が高い傾向であった。介護サービスを措置制度で行っていた1999年以前の扶助費(老人福祉費)と介護保険制度施行以後の介護保険費用に対し、同様の分析を行った結果、いずれもβ収束が認められた。扶助費と介護保険費用のβ収束の推定結果の差は小さく、収束の傾向は介護保険制度導入前より生じていたことが明らかとなった。これらの結果から、介護保険制度浸透に伴い、介護保険サービス整備が低水準・利用が非積極的だった地域において、施設整備・積極的な利用がより生じていることが示唆された。
ISSN:1340-895X
2759-4017
DOI:10.24742/jhep.2015.07