幼児の貸し借り行動の学習におけるモデル観察の効果
本研究は, 社会化の過程で獲得されるべき行動の1つである貸し借り行動を学習する際に, その行動を行っているモデルを観察することが, どのような役割を果たすかを検討しようとするものである。具体的には, 1) 観察学習による, 新しい型の貸し借り行動の獲得, 既存の貸し借り行動の促進, 2) モデル観察と直接示唆との促進効果の比較, 3) 観察に伴なう代理的強化の効果, 4) 観察によって獲得・促進された行動の汎化, についての仮説を検証することが目的である。 まず幼稚園児を被験者として, 2人1組の被験者対を作り, 予備実験を行った。被験者対ごとの現状の貸し借り行動のレベルを知り等質な群にふり分...
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          | Published in | 教育心理学研究 Vol. 23; no. 3; pp. 154 - 164 | 
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| Main Authors | , | 
| Format | Journal Article | 
| Language | Japanese | 
| Published | 
            一般社団法人 日本教育心理学会
    
        1975
     | 
| Online Access | Get full text | 
| ISSN | 0021-5015 2186-3075  | 
| DOI | 10.5926/jjep1953.23.3_154 | 
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| Summary: | 本研究は, 社会化の過程で獲得されるべき行動の1つである貸し借り行動を学習する際に, その行動を行っているモデルを観察することが, どのような役割を果たすかを検討しようとするものである。具体的には, 1) 観察学習による, 新しい型の貸し借り行動の獲得, 既存の貸し借り行動の促進, 2) モデル観察と直接示唆との促進効果の比較, 3) 観察に伴なう代理的強化の効果, 4) 観察によって獲得・促進された行動の汎化, についての仮説を検証することが目的である。 まず幼稚園児を被験者として, 2人1組の被験者対を作り, 予備実験を行った。被験者対ごとの現状の貸し借り行動のレベルを知り等質な群にふり分ける事, モデルの行動が被験者にとって新しい貸し借りである事を確かめる事の2点がねらいである。提示した手本どおりにぬるには6色のクレヨンが必要な「くだもの」のぬり絵課題で, 1箱のクレヨンを手本の中の3色, 手本にない色 3色の2セットに分けたものを, 対の両方に分け与える。課題を完成するにはのべ6度クレヨンの貸し借りをするしかない状況である。結果として, モデルの行動の新奇性が確かめられ, また貸し借り行動それ自体は, 被験者がある程度学習していることが予想された。 本実験は, モデルが貸し借りをして賞を与えられるフィルムを見るE1群, モデルの貸し借り行動のみのフィルムを見るE2群, 直接に貸し借りの示唆を受けるE3群, および統制C群の4群に分けて行われた。各群はそれぞれの操作を受けた後に, 予備実験と同様の条件で「朝顔」のぬり絵を与えられ, 終了後ひきっついて, 汎化を見るために, ぬり絵とは形態・難易度とも異なるが同じく貸し借りを必要とするような色板ならべの課題を与えられた。貸し借りの様子はそのまま記録され, モデルとの行動の一致度によって分けた3段階のカテゴリーリストに整理された。仮説検討の結果は次の通りである。 1) モデル観察をしたE1・E2群は, 統制群に比べて有意に多くの, モデルと一致した貸し借り行動を行い, また他の既存の貸し借りも多く行った。モデル観察によって, 新反応が獲得され, 既存の反応が促進されたといえる。 2) 直接示唆をした群も, 統制群と比べて多くの貸し借りを行い, 予想に反してフィルム観察群になんら劣るところはなかった。これは, 被験者がある程度貸し借り行動を学習していた事と, 課題遂行場面で貸し借りをすることが唯一の解決法であっだ事も原因と考えられる。また本実験において直接示唆群の操作が比較するのに十分なほど吟味されていなかった点は今後改善すべき問題である。 3) フィルム観察を行った2群 (E1, E2) の間で, 代理的強化の有無はモデル観察の効果に大きな影響を与えなかった。しかし, これだけで, モデル観察における代理的強化の効果を否定するのは早計であろう。まだ検討すべき点が残されている。2) と同様の原因も考えられるし, 本実験の賞が被験者にとって本当に代理的強化足り得たかどうかも, 再検討の余地がある。 4) 汎化を見るための色板ならべ課題において, 貸し借り行動は前課題より少なくなったが, モデル観察をした 2群はしなかった群にくらべて多くの言語を用いた貸し借りを行い, 先に獲得・促進されたものが汎化したことを示している。 | 
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| ISSN: | 0021-5015 2186-3075  | 
| DOI: | 10.5926/jjep1953.23.3_154 |