高等学校生物教科書に見られる自然保護から生物多様性保全への変遷

本研究は,高等学校生物の教科書史において,自然保護から生物多様性保全への変遷をたどり,その移行期にどのような学習がなされてきたかを示すことを目的としている.生物多様性の概念が示されている高等学校教科書20冊について,生態系の多様性,種の多様性,遺伝子の多様性の3つの生物多様性に関する学習内容,及び生物多様性保全方法に関する学習内容を,保全リテラシーガイドラインの項目との対応について調査した結果,次のことが明らかとなった.生物多様性の保全という観点から,昭和45年度版教科書から平成11年度版教科書での学習内容を概観すると,自然に対する人間の姿勢が,理念的な内容から科学技術を用いた生態系の平衡の維...

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Published in生物教育 Vol. 56; no. 3; pp. 94 - 105
Main Author 加藤, 美由紀
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 一般社団法人 日本生物教育学会 2016
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ISSN0287-119X
DOI10.24718/jjbe.56.3_94

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Summary:本研究は,高等学校生物の教科書史において,自然保護から生物多様性保全への変遷をたどり,その移行期にどのような学習がなされてきたかを示すことを目的としている.生物多様性の概念が示されている高等学校教科書20冊について,生態系の多様性,種の多様性,遺伝子の多様性の3つの生物多様性に関する学習内容,及び生物多様性保全方法に関する学習内容を,保全リテラシーガイドラインの項目との対応について調査した結果,次のことが明らかとなった.生物多様性の保全という観点から,昭和45年度版教科書から平成11年度版教科書での学習内容を概観すると,自然に対する人間の姿勢が,理念的な内容から科学技術を用いた生態系の平衡の維持へと移行し,生態系の保全から生物多様性の保全へと保全の対象が拡大していった.自然保護教育は生態系の概念を導入し,生物多様性保全教育は,生態系に加えて進化のプロセスを重要視している.その移行期の教科書には,生態系と進化のプロセスを保つための十分な面積を保護するという保全方法について記載されていない場合が多く,生物多様性の概念と生物多様性を保全するための科学的な対処法とを関連させる視点を明確に記載した教科書は多くはなかったことが特徴として挙げられる.
ISSN:0287-119X
DOI:10.24718/jjbe.56.3_94