モンゴル,ハンガイ山地,オルホン川上流域の景観

モンゴルと聞くと広大な砂漠と緑の草原を思い浮かべる読者が多いかもしれない.しかしモンゴルは実に山の国である.同国中央部から北西部には植生を欠く赤茶けた山肌や急峻な山地が延々と連なり,なかには欧州アルプスを彷彿とさせる雪を被った峰が続く.モンゴル中央部のハンガイ(Khangai)山地(東西1000 km 南北200 km)には,おもに古生代の造山帯産物(付加体,花崗岩,高圧変成岩,オフィオライトなど)が産する.写真の地域はハンガイ山地西部を流れるオルホン川上流域(N46°50′ E101°45′)で,中央アジア造山帯の一部をなすデボン紀付加体が広く分布し,尾根にはしばしば硬い層状チャートが露出す...

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Published in地学雑誌 Vol. 133; no. 2; pp. Cover02_01 - Cover02_02
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 公益社団法人 東京地学協会 25.04.2024
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ISSN0022-135X
1884-0884
DOI10.5026/jgeography.133.Cover02_01

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Summary:モンゴルと聞くと広大な砂漠と緑の草原を思い浮かべる読者が多いかもしれない.しかしモンゴルは実に山の国である.同国中央部から北西部には植生を欠く赤茶けた山肌や急峻な山地が延々と連なり,なかには欧州アルプスを彷彿とさせる雪を被った峰が続く.モンゴル中央部のハンガイ(Khangai)山地(東西1000 km 南北200 km)には,おもに古生代の造山帯産物(付加体,花崗岩,高圧変成岩,オフィオライトなど)が産する.写真の地域はハンガイ山地西部を流れるオルホン川上流域(N46°50′ E101°45′)で,中央アジア造山帯の一部をなすデボン紀付加体が広く分布し,尾根にはしばしば硬い層状チャートが露出する.まだアジア大陸ができる以前に存在した広い海洋(古アジア海)底の欠けらであるチャートの尾根からは,植生や人工物がほとんどないため扇状地や網状河川などの自然地形がよく観察される.草原上の白い点に見える遊牧民達のゲルが,よいスケールである.対岸に広がる平坦な部分は一見河岸段丘面のように見えるが,実は第四紀に噴出した洪水玄武岩の流出面である.モンゴルを史上最大の帝国にまで仕立て上げたチンギスハンの物語として,古文書『元朝秘史』に基づく井上 靖著『蒼き狼』を読まれた読者も多いだろう.オルホン川はそのなかにたびたび出てきて,主人公のみならず,その兵士や家族が何度となくこの河を渡って長距離移動したことを思い起こさせる.1000年近くを経た今でもこの景観はその当時とそれほど変わっていないのではなかろうか.(写真・説明:磯﨑行雄)
ISSN:0022-135X
1884-0884
DOI:10.5026/jgeography.133.Cover02_01