高度経済成長期の足尾製錬所による大気汚染問題と健康被害の潜在化

1971年より栃木県が足尾製錬所から排出される「いおう酸化物1)」を測定した結果,環境基準値を超える測定地点があった.それ以前から大気汚染が発生していたと考えられる中,1968年,足尾町内の住民団体が煙害の補償を求める請願書を町議会に提出し,その後アンケート調査を実施して健康被害等を可視化させた.しかし,町行政は住民団体に被害の「証拠」の提出を求めるのみであった.その「証拠」となる疫学調査は「壁」となって調査されず,被害は潜在化した.これは,企業城下町において母体となる企業の経営悪化が,住民の健康を守るという町行政の役割の放棄を招き,住民も個人を特定されるような調査を回避したからである....

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Bibliographic Details
Published in環境経済・政策研究 Vol. 16; no. 2; pp. 1 - 13
Main Author 匂坂, 宏枝
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 環境経済・政策学会 30.09.2023
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ISSN1882-3742
2188-2495
DOI10.14927/reeps.art1602-001

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Summary:1971年より栃木県が足尾製錬所から排出される「いおう酸化物1)」を測定した結果,環境基準値を超える測定地点があった.それ以前から大気汚染が発生していたと考えられる中,1968年,足尾町内の住民団体が煙害の補償を求める請願書を町議会に提出し,その後アンケート調査を実施して健康被害等を可視化させた.しかし,町行政は住民団体に被害の「証拠」の提出を求めるのみであった.その「証拠」となる疫学調査は「壁」となって調査されず,被害は潜在化した.これは,企業城下町において母体となる企業の経営悪化が,住民の健康を守るという町行政の役割の放棄を招き,住民も個人を特定されるような調査を回避したからである.
ISSN:1882-3742
2188-2495
DOI:10.14927/reeps.art1602-001