第38回河口湖心臓討論会 「分子生物学から見た循環器疾患」心不全に対する心筋遺伝子治療の開発

心筋遺伝子導入は,遺伝性の心筋症や後天的に起こる難治性心筋疾患に対して新しい治療法となりうる基盤技術である.現時点での問題は,生体内で心臓に均一にかつ高い効率で治療遺伝子の導入を行うことが難しい点である. われわれは,一時的な心停止と血管透過性物質による処理を最適化し,治療遺伝子を病的な心臓にきわめて高いミ効率で導入する新しい方法を開発した.この方法で心筋症ハムスターの欠損遺伝子,δ-sarcoglycanを心筋に均一かつ高効率で導入することが可能となり,心機能低下が有意に抑制された. さらに,臨床上,心不全の原因遺伝子を同定することが困難であることから,未知原因の心不全治療法として心筋細胞の...

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Published in心臓 Vol. 37; no. 1; pp. 100 - 107
Main Authors 池田, 安宏, 松崎, 益徳
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 公益財団法人 日本心臓財団 2005
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ISSN0586-4488
2186-3016
DOI10.11281/shinzo1969.37.1_100

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Summary:心筋遺伝子導入は,遺伝性の心筋症や後天的に起こる難治性心筋疾患に対して新しい治療法となりうる基盤技術である.現時点での問題は,生体内で心臓に均一にかつ高い効率で治療遺伝子の導入を行うことが難しい点である. われわれは,一時的な心停止と血管透過性物質による処理を最適化し,治療遺伝子を病的な心臓にきわめて高いミ効率で導入する新しい方法を開発した.この方法で心筋症ハムスターの欠損遺伝子,δ-sarcoglycanを心筋に均一かつ高効率で導入することが可能となり,心機能低下が有意に抑制された. さらに,臨床上,心不全の原因遺伝子を同定することが困難であることから,未知原因の心不全治療法として心筋細胞の筋小胞体Ca2+ハンドリングを亢進させる遺伝子導入の開発,すなわち偽リン酸化ホスホランバン(S16EPLN)の心筋遺伝子導入をBIO14.6心筋症ハムスターに行った. AAV/S16EPLNによる遺伝導入は, 筋小胞体のCa2+ATPaseの取り込み能を促進し,進行性の左室収縮不全を劇的に7カ月以上にわたって改善した.さらに組織染色では, 細胞障害を示す細包膜の破綻や心筋間質の線維化も抑制された. 心不全の進行に伴う低血圧や, 心力筋の拡張障害は著明に抑制された. ラット心筋梗塞後心不全モデルでもPLNの抑制が心不全進行の予防に有効であった.これらの結果は,生体内遺伝子導入法によるアプローチが,薬剤抵抗性で進行性の心筋症あるいは心不全においては有効な治療戦略となりうることを強く示唆している.またこの方法は,動物実験系としても未知遺伝子の心不全進行における生理的効果を評価するのに適していると考えられる.
ISSN:0586-4488
2186-3016
DOI:10.11281/shinzo1969.37.1_100