精神疾患患者に対する炭酸ガス附加血液注射について

1%中性クエン酸ソーダ生理的食塩水で同量の血液を2倍に稀釈し, CO2ガスを15~20分間通気し得られたCO2―附加自家血液を各種精神疾患の患者に毎kg1~4.0ccの静脈内注射を行ない, 種々検討を行なつたところ, 次の如き結果が得られた. 1) CO2―加血注射により, 静脈血CO2量は僅かに増加する例もあるが, 全体としては減少する.動脈血においては殆ど全例においてしかも静脈血より著明に減少する. 2) 白血球数は多くの例で増加する (最高17, 000) .注射早期に僅かに減少する例もあるが, 後には増加する.この増加は中性多核白血球によるもので, 好酸球は著しく減少する.赤血球は注射...

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Published in昭和医学会雑誌 Vol. 20; no. 7; pp. 783 - 804
Main Author 大内, 繁
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 昭和大学学士会 1960
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ISSN0037-4342
2185-0976
DOI10.14930/jsma1939.20.783

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Summary:1%中性クエン酸ソーダ生理的食塩水で同量の血液を2倍に稀釈し, CO2ガスを15~20分間通気し得られたCO2―附加自家血液を各種精神疾患の患者に毎kg1~4.0ccの静脈内注射を行ない, 種々検討を行なつたところ, 次の如き結果が得られた. 1) CO2―加血注射により, 静脈血CO2量は僅かに増加する例もあるが, 全体としては減少する.動脈血においては殆ど全例においてしかも静脈血より著明に減少する. 2) 白血球数は多くの例で増加する (最高17, 000) .注射早期に僅かに減少する例もあるが, 後には増加する.この増加は中性多核白血球によるもので, 好酸球は著しく減少する.赤血球は注射後一時的に減少するが, 注射回数を重ねると増加する. 3) 脈搏数には変化なく, 呼吸は深さを増し, 数は減少し, 又不規則となり, 変化のない場合もあるが, この変化は個体により一定している.血圧は全例の2/3が下降し, 1/3が上昇した.高血圧者では下降例が多く, 且つ下降が顕著であつた. 4) 対照実験として行つた自家振盪血液注射では, CO2量は変化なく, 好酸球の減少のみが, CO2―附加血液と同様に認められた.脈搏呼吸は影響されないが, 血圧は一時上昇した例もあるが, 下降を示した.7%重曹水注射では.注射直後より動脈血中CO2量はかなり上昇し, 間もなく急速に減少し注射前の価いに復帰する.血球の所見は変化なく, 血圧は注射後直ちに上昇する.脈搏, 呼吸には変化がない.この対照実験よりCO2―附加血液注射特有の生体変化と, そのメカニズムを推察し得た. 5) CO2―附加血液注射による上記諸変化は各種衝撃療法の際のそれと程度の差こそあれ酷似している.これは両者がほゞ共通の自律神経中枢変化の基盤に立つためと考えられる.尚電撃療法の際, 単純施行時と, 中枢性痙攣抑制剤, 或は末梢性筋弛緩剤併用時における血中CO2量を測定し, それぞれの治療効果と比較した結果, CO2量の変化が筋肉の痙攣, 意識の喪失とは無関係であつて, しかもCO2量の減少が治療効果と平行する事を認めたが, このことよりCO2―附加血液注射による血中CO2量の減少が, 精神疾患の治療効果に対して大きな意義を持つ事を推察し得た. 6) CO2―附加血液注射により, 躁うつ病では殊にうつ状態, 精神分裂病においては緊張病の病像を好転せしめたが, 精神運動興奮を鎮静する作用より, 精神運動抑制, 或は阻害に際し, 意志の発動を活発化する作用の方が著明であつた.又緊張病, 破瓜病の一部において悪化例を認め, 何れも刺激性となり, 精神運動興奮状態となつた.てんかんに対する効果は不定であり, 又神経症には全く無効であつた. 7) CO2―附加血液注射は, これによる生物学的諸変化と, 臨床的治療効果とより考察すれば, 現時広く行なわれている.各種衝撃療法と自律神経遮断等による薬物療法との間に横たわる空白の, 少なくと一部をみたす治療法とみなす事が出来るであろう.
ISSN:0037-4342
2185-0976
DOI:10.14930/jsma1939.20.783