栄養政策等の社会保障費抑制効果の評価に向けた医療経済学的な基礎研究
本研究は,栄養政策等が国民の健康・栄養状態を改善し,疾病や介護を予防することによりもたらされる社会保障費抑制効果の評価方法を確立することを目的として行った. ポピュレーションアプローチによる減塩活動の最近の動向として,地域の現状をできるだけ客観的に明確化した上で,自治体においても関連団体,地元企業と連携した取り組みが行われていた.対人の栄養指導の効果に関する文献レビューでは,地域や職域,医療機関における様々な健康状態の個人に対して,現状に合わせた多様な方法で栄養指導が実施されていることが明らかとなった.栄養不良の二重負荷の観点による海外の栄養政策については,日本が従来から行ってきたようなより幅...
Saved in:
| Published in | 保健医療科学 Vol. 74; no. 3; pp. 236 - 242 |
|---|---|
| Main Author | |
| Format | Journal Article |
| Language | Japanese |
| Published |
国立保健医療科学院
29.08.2025
|
| Subjects | |
| Online Access | Get full text |
| ISSN | 1347-6459 2432-0722 |
| DOI | 10.20683/jniph.74.3_236 |
Cover
| Summary: | 本研究は,栄養政策等が国民の健康・栄養状態を改善し,疾病や介護を予防することによりもたらされる社会保障費抑制効果の評価方法を確立することを目的として行った. ポピュレーションアプローチによる減塩活動の最近の動向として,地域の現状をできるだけ客観的に明確化した上で,自治体においても関連団体,地元企業と連携した取り組みが行われていた.対人の栄養指導の効果に関する文献レビューでは,地域や職域,医療機関における様々な健康状態の個人に対して,現状に合わせた多様な方法で栄養指導が実施されていることが明らかとなった.栄養不良の二重負荷の観点による海外の栄養政策については,日本が従来から行ってきたようなより幅広い世代を対象とした栄養政策・介入からも栄養の二重責務行動が検討されるべきであると考えられた.循環器疾患による障害調整生存年( DALYs)へのナトリウム高摂取の寄与については,1990 年から 2017 年の間に著しく低下したものの,2010 年代以降は横ばい傾向にあり,OECD 加盟国の中で日本はナトリウム高摂取の寄与割合が最も高い国となっていた.栄養政策による循環代謝疾患予防の社会保障費抑制に関する経済評価研究については,海外では国の減塩政策による循環器疾患予防の費用と効果について,シミュレーションモデルに基づく医療経済的評価から得た科学的根拠を発信していた. 高齢者における介護予防の医療費・介護費への影響に関するシミュレーション研究では,医療費と介護費の合計は死亡率が低下すると増加するが,介護予防によって非自立者の割合が低下すると,その増加が抑制される可能性が示された.反実仮想シナリオに基づくシミュレーションによる死亡率の⾧期推移の検討では,1950 ~ 2017 年の全期間を通じて減塩により男性で約 298,000 人,女性で約 118,000 人の死亡が予防されたと推定された.減塩目標を達成した場合の循環器疾患関連医療費抑制効果については,成人における食塩摂取量の削減目標を達成すれば,中程度の健康経済効果が期待できることが示唆された. わが国の栄養政策の社会保障費抑制効果を評価するためには,海外の先行研究を参考にして公衆衛生学的かつ医療経済学的なシミュレーション研究を今後さらに発展させる必要がある. |
|---|---|
| ISSN: | 1347-6459 2432-0722 |
| DOI: | 10.20683/jniph.74.3_236 |