乳牛における潜在性ルーメンアシドーシス(SARA)に関する研究

本研究は,近年高泌乳牛の飼養管理と関連して問題となっている潜在性ルーメンアシドーシス(SARA)の病態解明および予防・低減法確立のために,無線伝送式ルーメンpHセンサー(pHセンサー)を使用したSARAの実態把握,SARA発症牛の血液性状の変化およびクラフトパルプ投与によるSARA低減効果を明らかにすることを目的として,一連の実験を行った.まず,pHセンサーを用いた疫学調査で山形県最上地方の酪農家で飼養されている乳牛におけるルーメンまたは第二胃のpH(前胃液pH)を測定したところ,分娩前後45日間のSARA出現率は29.0~77.4%であり,飼料形態や飼料中デンプン濃度,移行期の飼料変化が牛群...

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Published in産業動物臨床医学雑誌 Vol. 13; no. 4; pp. 136 - 154
Main Author 岩﨑(前田), まりか
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本家畜臨床学会 ・ 大動物臨床研究会・九州沖縄産業動物臨床研究会 2024
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ISSN1884-684X
2187-2805
DOI10.4190/jjlac.13.136

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Summary:本研究は,近年高泌乳牛の飼養管理と関連して問題となっている潜在性ルーメンアシドーシス(SARA)の病態解明および予防・低減法確立のために,無線伝送式ルーメンpHセンサー(pHセンサー)を使用したSARAの実態把握,SARA発症牛の血液性状の変化およびクラフトパルプ投与によるSARA低減効果を明らかにすることを目的として,一連の実験を行った.まず,pHセンサーを用いた疫学調査で山形県最上地方の酪農家で飼養されている乳牛におけるルーメンまたは第二胃のpH(前胃液pH)を測定したところ,分娩前後45日間のSARA出現率は29.0~77.4%であり,飼料形態や飼料中デンプン濃度,移行期の飼料変化が牛群の前胃液pHやSARA発生率に影響することが示唆された.次に,SARAが高い割合で見られたS農場において,ルーメンpHをモニタリングしエネルギー代謝に関係するホルモンや代謝産物の血中濃度を測定した.前胃液pHを評価するにあたり,SARAの診断基準となるpH閾値を下回った時間の総計(低pH時間)と,SARAと診断された日数(SARA日数)のふたつのパラメーターを算出し,血液性状との関係性を検討したところ,分娩4週後の血中アディポネクチン(AND)濃度は,分娩後1週間の低pH時間との関連性が認められた.加えて,分娩4週後の血中ADN濃度もしくは分娩1週間後と4週間後のADN平均濃度と,分娩後30日間のSARA日数には強い正の相関関係が認められた.分娩4週後の血中ADN濃度はルーメン液中酢酸モル比と負の相関関係が認められた.この結果から,脂肪細胞から分泌されるアディポカインのひとつであるADNは,前胃液pHおよびルーメン発酵を反映するSARAの評価指標として有用であることが示唆された.さらに,S農場の移行期の乳牛において,高栄養価でありながら多くの繊維分を含み消化速度が緩やかなクラフトパルプを給与することで,前胃液pHの改善効果が見られた.以上により,本研究ではSARAの実態を把握するとともに,ルーメン発酵が糖・脂質代謝にかかわるADNの血中濃度と関連していることを明らかにし,クラフトパルプ給与によるSARA低減の可能性を示した.
ISSN:1884-684X
2187-2805
DOI:10.4190/jjlac.13.136