静脈栄養のアミノ酸組成が宿主の腸管免疫に与える 影響―マウスモデルによる基礎的検討
腸管は生体最大の免疫臓器であり, そこに存在する腸管リンパ装置 (GALT) は腸管免疫能維持に欠かせな役割を担っている. 外科侵襲時において腸管免疫を維持することは, 全身の炎症反応の調節や感染性合併症の予防に寄与し, 可能な限り経腸的な栄養をすることが良いことが広く知られている. しかし, 重症患者では経腸的に栄養することができず, 静脈栄養 (TPN) に頼らざるを得ない場合がある. 腸管を使用しない状態ではGALT が萎縮することが明らかにされており, 我々はTPN 製剤の内容を工夫することで, GALT を維持増進できるかをマウスモデルで検討している. これまでの検討から, (1)T...
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Published in | 外科と代謝・栄養 Vol. 58; no. 3; p. 38 |
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Main Authors | , |
Format | Journal Article |
Language | Japanese |
Published |
日本外科代謝栄養学会
10.07.2024
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ISSN | 0389-5564 2187-5154 |
DOI | 10.11638/jssmn.58.3_38 |
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Summary: | 腸管は生体最大の免疫臓器であり, そこに存在する腸管リンパ装置 (GALT) は腸管免疫能維持に欠かせな役割を担っている. 外科侵襲時において腸管免疫を維持することは, 全身の炎症反応の調節や感染性合併症の予防に寄与し, 可能な限り経腸的な栄養をすることが良いことが広く知られている. しかし, 重症患者では経腸的に栄養することができず, 静脈栄養 (TPN) に頼らざるを得ない場合がある. 腸管を使用しない状態ではGALT が萎縮することが明らかにされており, 我々はTPN 製剤の内容を工夫することで, GALT を維持増進できるかをマウスモデルで検討している. これまでの検討から, (1)TPN 製剤中のアミノ酸の量だけを増やしてもGALT リンパ球数やフェノタイプは改善しないこと, (2) アミノ酸の種類を調整することでGALT が修飾されることが示されている. 例えば, 2%グルタミン含有TPN は, マウスのGALT リンパ球数およびIgA レベルを改善したが, 1%アルギニン含有TPN では変化を生じなかった. このほか, 分岐鎖アミノ酸ロイシンの代謝産物であるbeta-hydroxy-betamethylbutyrate (HMB) 添加TPN (HMB-TPN) では、GALT リンパ球およびフェノタイプを修飾し, 絨毛高や陰窩深の改善を認めた. さらに, HMB の存在下でTPN 製剤中のアミノ酸含有量を増やした場合には, 前述の検討では示されなかったGALT 細胞数の増強やフェノタイプの修飾が部分的に観察され, GALT をより改善する可能性が示唆された. HMB にはm TOR 発現増強による細胞増殖能の向上や, アポトーシスを抑制する効果が知られているが, HMB-TPN モデルにおいても、ウエスタンブロッティング法によるm TOR ならびにBcl2 発現の増強のほか, 組織学的評価によるTUNEL 陽性細胞の減少とKi67 陽性細胞の増加が認められ, 非経腸栄養時のGALT 萎縮を抑制した機序のひとつとして, これらの要素が関与したと考えられた. |
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ISSN: | 0389-5564 2187-5154 |
DOI: | 10.11638/jssmn.58.3_38 |