外科と真菌症ー臓器移植領域

臓器移植後における感染症は、拒絶反応とともに臨床医がまずクリアすべきハードルである。臓器移植にみられる深在性真菌症は数% から 10% 程度とウイルス感染や細菌感染と比べて発症頻度が低いにもかかわらず、致死率は高い。患者は移植を受ける時点で臓器不全に伴う感染防御能低下があり、これに外科的侵襲に免疫抑制療法が加わる。さらに早期診断の難しさに加え、抗真菌薬の選択の幅は広いとは言えず、予防的抗真菌薬投与もエビデンスと呼べるものが少ない、などがその理由としてあげられる。 主な原因真菌はカンジダとアスペルギルスである。侵襲性アスペルギルス症は、肺移植患者での頻度が高いが、特に重篤な播種性アスペルギルス症...

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Published in日本医真菌学会総会プログラム・抄録集 p. 7
Main Author 光武, 耕太郎
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本医真菌学会 2005
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ISSN0916-4804
DOI10.11534/jsmm.49.0.7.0

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Summary:臓器移植後における感染症は、拒絶反応とともに臨床医がまずクリアすべきハードルである。臓器移植にみられる深在性真菌症は数% から 10% 程度とウイルス感染や細菌感染と比べて発症頻度が低いにもかかわらず、致死率は高い。患者は移植を受ける時点で臓器不全に伴う感染防御能低下があり、これに外科的侵襲に免疫抑制療法が加わる。さらに早期診断の難しさに加え、抗真菌薬の選択の幅は広いとは言えず、予防的抗真菌薬投与もエビデンスと呼べるものが少ない、などがその理由としてあげられる。 主な原因真菌はカンジダとアスペルギルスである。侵襲性アスペルギルス症は、肺移植患者での頻度が高いが、特に重篤な播種性アスペルギルス症は肝移植でもみられる。また心移植ではカンジダよりアスペルギルスが優位との報告もある。侵襲性アスペルギルス症は死亡率が極めて高いことが問題であり、移植後の患者の死亡原因として、侵襲性アスペルギルス症は、肺移植で 9.3%、肝移植で 16.9% とする報告もある。 深在性真菌症はひとたび発症すると治療に難渋することから、診断や治療よりもまず、予防や先制攻撃的治療に重点をおくことになる。とはいえ、抗真菌薬の予防投与は移植実施施設や移植臓器によって異なっており、予防投与は患者毎に、臨床経過やリスクを考慮して行い、全例に行なうべきではないとの意見もある。また薬剤の選択においても、アスペルギルスに対する効果の弱いナイスタチンやフルコナゾールでいいのか、アスペルギルスを考慮するならばイトラコナゾールの内服が必要ではないのか、投与方法や投与期間はどうあるべきかなど、真菌症予防に関して解決すべき問題は多い。さらに、移植領域における特徴として、深在性真菌症の発症には immunomodulating virus としてサイトメガロウイルスやヒトヘルペスウイルス 6 との関連が指摘されている。免疫グロブリンや抗ウイルス薬によるサイトメガロウイルス感染予防を行なうと、深在性真菌症の発生頻度は低下し、間接的に予防につながるというものである。 治療においては、β-グルカン合成阻害薬であるミカファンギンは、安全性も高くアスペルギルスやアゾール耐性カンジダに対しても良好な抗真菌活性を示す。免疫抑制薬との相互作用もほとんどないため移植領域でも有用性が期待される。さらに、新たなアゾール系薬のボリコナゾールが上市され、アムホテリシン B のリポソーム製剤がようやく国内でも使用可能となるようである。移植領域でとくにやっかいなアスペルギルス症に対して、使用可能な薬剤の選択の幅がひろがり、これらの薬剤は深在性真菌症の予防や治療に組み込まれていくことになる。
Bibliography:SI-5
ISSN:0916-4804
DOI:10.11534/jsmm.49.0.7.0