モンゴル国アルハンガイ県における遊牧民の宿営地移動と家畜の採食植物としての植物利用
1990年代前半における市場経済への移行後,モンゴル国では家畜頭数が急増し,放牧地の劣化が危惧されている.このような中で,遊牧民たちに利用される各季節宿営地の立地条件や重視される採食植物といった遊牧パターンを把握し,遊牧民の視点に立った放牧地の健全性を維持するための利用や管理に関わる指針を構築することが求められる.本研究では,歴史的に放牧家畜頭数が一貫して多いアルハンガイ県を対象として,遊牧民世帯への聞き取り調査を行い,遊牧パターンに関する情報を把握することを目的とした.アルハンガイ県ホトント郡において,2016年8月および2019年2月に現地調査を行った.2016年8月の調査では遊牧民世帯の...
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Published in | 沙漠研究 Vol. 34; no. 2; pp. 53 - 64 |
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Main Authors | , , |
Format | Journal Article |
Language | Japanese |
Published |
日本沙漠学会
30.09.2024
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Subjects | |
Online Access | Get full text |
ISSN | 0917-6985 2189-1761 |
DOI | 10.14976/jals.34.2_53 |
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Summary: | 1990年代前半における市場経済への移行後,モンゴル国では家畜頭数が急増し,放牧地の劣化が危惧されている.このような中で,遊牧民たちに利用される各季節宿営地の立地条件や重視される採食植物といった遊牧パターンを把握し,遊牧民の視点に立った放牧地の健全性を維持するための利用や管理に関わる指針を構築することが求められる.本研究では,歴史的に放牧家畜頭数が一貫して多いアルハンガイ県を対象として,遊牧民世帯への聞き取り調査を行い,遊牧パターンに関する情報を把握することを目的とした.アルハンガイ県ホトント郡において,2016年8月および2019年2月に現地調査を行った.2016年8月の調査では遊牧民世帯の世帯主とともに彼らがそれぞれの季節に宿営地として利用している場所を訪れ,利用実態について聞き取りを実施した.2019年2月の調査では2016年8月の調査で訪れた冬営地周辺の植物の生育状況と日帰り放牧の様子を観察し,世帯主に聞き取りを実施した.対象とした遊牧民世帯では夏営地と冬営地間の距離は5 km程度であり,狭い範囲内で年間の宿営地移動が行われていた.本地域におけるこのような宿営地移動は既存研究による報告と一致する.夏営地はCarex duriuscula(カヤツリグサ科スゲ属)やElymus chinensis(イネ科エゾムギ属)が優占する河川に近い平坦地に置かれ,これらの植物種はヒツジ,ヤギ,ウシに積極的に採食されていた.秋営地として利用される山地斜面ではAllium属(ヒガンバナ科ネギ属)の植物が採食植物として重視されていた.冬営地周辺の日帰り放牧地においてもCarex属の植物が豊富に分布しており,採食植物として重視されていた.既存の植物生態学的な研究ではC. duriusculaは過放牧の指標として報告されることが少なくない.しかし川沿いや山地斜面の湿性立地などのCarex属の植物が優占する植生は遊牧民にとって日帰り放牧地として重要であり,そのような場所ではCarex属植物の優占度の減少に着目した管理が必要である. |
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ISSN: | 0917-6985 2189-1761 |
DOI: | 10.14976/jals.34.2_53 |