The House in ParisとThe Death of the Heartにおけるボウエンの子供のイメージ

エリザベス. ボウエン(Elizabeth Bowen, 1889-1973)の子供は, 大人に裏切られ, 無垢の心を傷つけられた悲しみの像を表わしているといえるが, 彼らの深い喪失感はどこからくるのだろうか. 彼らは不安定な現実の中で人生に欺かれている子供であり, それゆえ無垢の力によってillusionの世界を自己存在の場としていた. 即ち, 彼らが大人の裏切りによって失ったのは, 大人との愛ある人間関係そのものであると同時に, それを期待して創り上げたillusionの世界なのである. 我々は, 子供の泣く姿からillusionが人を支える重要なものであり, また, それがいかに崩壊され...

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Published inKAWASAKI IGAKKAI SHI LIBERAL ARTS & SCIENCE COURSE Vol. 9; pp. 45 - 52
Main Author 名木田恵理子
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 川崎医学会 1983
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ISSN0386-5398
DOI10.11482/kmj-las(9)45

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Summary:エリザベス. ボウエン(Elizabeth Bowen, 1889-1973)の子供は, 大人に裏切られ, 無垢の心を傷つけられた悲しみの像を表わしているといえるが, 彼らの深い喪失感はどこからくるのだろうか. 彼らは不安定な現実の中で人生に欺かれている子供であり, それゆえ無垢の力によってillusionの世界を自己存在の場としていた. 即ち, 彼らが大人の裏切りによって失ったのは, 大人との愛ある人間関係そのものであると同時に, それを期待して創り上げたillusionの世界なのである. 我々は, 子供の泣く姿からillusionが人を支える重要なものであり, また, それがいかに崩壊され易いかを認識する. しかし, ボウエンはillusion崩壊の真の被害者を子供としない. 現実には存在しえぬillusionを求めてくる子供によって脅かされる大人の方こそ, illusionを失った者のもろさを露呈しているからである. ここでの大人達はillusionを創る力もなく, 子供の要求に対して逃げることしかできない不能者である. ボウエンは, 子供と, 子供によってひびわれさせられる大人の様相の中に, illusionの人生における意味を浮かび上がらせているといえる.
ISSN:0386-5398
DOI:10.11482/kmj-las(9)45