介護サービス需要における自己負担率の効果 給付管理レセプトによる実証分析

本稿では,介護保険制度下においてサービス利用者に課される自己負担率が,介護サービス需要に与える影響を検討した。また介護サービス需要に影響を及ぼすその他の要因について同時に検討した。サービス価格たる自己負担率の変化により,サービス需要がどの程度変化するかを示す「価格弾力性」の計測は,介護報酬や自己負担率改定の政策効果を図る上で重要な情報である。本稿での分析の対象は介護保険サービス中,最も基本的かつ重要なものと考えられる訪問介護サービスとした。また介護サービス需要関数の推定にあたっては,予算制約下における要介護高齢者の効用最大化の理論モデルを基本に自己負担の効果を検討した。実証分析では,東京都稲城...

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Published in医療と社会 Vol. 14; no. 3; pp. 3_191 - 3_211
Main Authors 南部, 鶴彦, 菅原, 琢磨
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 公益財団法人 医療科学研究所 2004
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ISSN0916-9202
1883-4477
DOI10.4091/iken.14.3_191

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Summary:本稿では,介護保険制度下においてサービス利用者に課される自己負担率が,介護サービス需要に与える影響を検討した。また介護サービス需要に影響を及ぼすその他の要因について同時に検討した。サービス価格たる自己負担率の変化により,サービス需要がどの程度変化するかを示す「価格弾力性」の計測は,介護報酬や自己負担率改定の政策効果を図る上で重要な情報である。本稿での分析の対象は介護保険サービス中,最も基本的かつ重要なものと考えられる訪問介護サービスとした。また介護サービス需要関数の推定にあたっては,予算制約下における要介護高齢者の効用最大化の理論モデルを基本に自己負担の効果を検討した。実証分析では,東京都稲城市の全面協力のもと2000年4月-2002年5月までの介護給付管理レセプトデータを用いて実際の利用状況を反映したデータセットを構築した。これらのデータセットには,低所得者に対する減免措置として自己負担を軽減されているサンプルが含まれており,この差を利用して価格弾力性を推定した。  介護サービス利用回数を被説明変数とする推定モデルでは,訪問介護サービスの自己負担率に関する需要の価格弾力性は約0.3であった。しかしこの値は推定上,所得水準の効果を含むため,過少推定となっている可能性があることに留意する必要がある。また所得段階の差が利用回数に影響を及ぼしているとの現象は統計的に確認できなかったが,事業者の差によっては利用回数に有意差が生じていることが示された。
ISSN:0916-9202
1883-4477
DOI:10.4091/iken.14.3_191