優生保護法第4条に基づく強制不妊手術対象者の探索 1950年代北海道の保健所の事業からの検討

本稿の目的は、医療、福祉、行政から強制不妊手術の対象者として予め把握されていなかった人々を、保健所がどのように探索して強制不妊手術につなげていたのか調査し、その問題点を考察することである。この目的を達成するために、1950年代の『日本公衆衛生雑誌』(日本公衆衛生学会) に掲載された北海道の保健所による農村における事業を分析した。その結果、保健所が行政と協力し、「精神薄弱」とみなされた住民を把握して接触し、大半は既に子のいる対象者の「希望」に応じ強制手術の規定(法第4 条) に基づく手術につなげたことが示された。対象者は、生殖に対する意思決定ができないわけでもなく、その一部は、用いる基準によって...

Full description

Saved in:
Bibliographic Details
Published in生命倫理 Vol. 34; no. 1; pp. 86 - 95
Main Author 由井 秀樹
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本生命倫理学会 30.09.2024
Subjects
Online AccessGet full text
ISSN1343-4063
2189-695X
DOI10.20593/jabedit.34.1_86

Cover

More Information
Summary:本稿の目的は、医療、福祉、行政から強制不妊手術の対象者として予め把握されていなかった人々を、保健所がどのように探索して強制不妊手術につなげていたのか調査し、その問題点を考察することである。この目的を達成するために、1950年代の『日本公衆衛生雑誌』(日本公衆衛生学会) に掲載された北海道の保健所による農村における事業を分析した。その結果、保健所が行政と協力し、「精神薄弱」とみなされた住民を把握して接触し、大半は既に子のいる対象者の「希望」に応じ強制手術の規定(法第4 条) に基づく手術につなげたことが示された。対象者は、生殖に対する意思決定ができないわけでもなく、その一部は、用いる基準によって「精神薄弱」に含まれるか否かが異なった。この事業の問題点として、(1) 既に子がいる人への不妊手術の問題、(2) 形式的な「同意」や「希望」にどこまで本人の意向が反映されていたかという問題、(3) 法適合性の問題を論じた。
ISSN:1343-4063
2189-695X
DOI:10.20593/jabedit.34.1_86