褥瘡に対する自己管理が可能になった一例 ―若年の上位頚損者に対する個人因子へのアプローチ O-092 地域リハビリテーション

【目的】 今回、在宅生活を送る若年上位頚髄損傷者の褥瘡の自己管理に対して支援したので報告する。【紹介】 30歳代前半、男性。10年以上前にトランポリンから転落し頚髄損傷(C4レベル、フランケル分類B)を受傷。両親は県内在住であるが、別居して一人暮らし。(心身機能)頭頸部筋機能残存、肩屈曲、外転、肘屈曲、伸展が一部可能。(活動)ADL全介助。趣味はパソコンでの絵画、カラオケ、SNS投稿。アタッチメントを口にくわえてパソコンなどを操作する。移乗、移動は移乗用リフトと電動車椅子を使用している。(参加)大学院生であり、リモート授業あるいは通学している。(環境因子)訪問介護を毎日14時間、訪問入浴を週1...

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Published in九州理学療法士学術大会誌 p. 92
Main Authors 江口, 宏, 村尾, 彰悟, 大久保, 智明, 田辺, 龍太, 渡邊, 進, 野尻, 晋一
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会 2023
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ISSN2434-3889
DOI10.32298/kyushupt.2023.0_92

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Summary:【目的】 今回、在宅生活を送る若年上位頚髄損傷者の褥瘡の自己管理に対して支援したので報告する。【紹介】 30歳代前半、男性。10年以上前にトランポリンから転落し頚髄損傷(C4レベル、フランケル分類B)を受傷。両親は県内在住であるが、別居して一人暮らし。(心身機能)頭頸部筋機能残存、肩屈曲、外転、肘屈曲、伸展が一部可能。(活動)ADL全介助。趣味はパソコンでの絵画、カラオケ、SNS投稿。アタッチメントを口にくわえてパソコンなどを操作する。移乗、移動は移乗用リフトと電動車椅子を使用している。(参加)大学院生であり、リモート授業あるいは通学している。(環境因子)訪問介護を毎日14時間、訪問入浴を週1回、訪問看護を週5回、訪問リハを週1回、重度障害者日常生活用具給付による福祉用具として電動ベッド、エアマットレス、電動車椅子、移乗用リフトを利用している。(個人因子)真面目で頑張り屋の性格。時間を忘れて熱中することができる。【説明と同意】 本発表はヘルシンキ宣言に沿い、本人に目的、方法を説明し同意を得た。【経過】 訪問看護師より左座骨部の褥瘡の治療が進まないためポジショニングを中心とした褥瘡の自己管理を指導してほしいと相談があり、訪問リハの利用が開始となる。ブレーデンスケールの評価で知覚認知、活動性、可動性、摩擦とずれの項目が低点数であった。問診による生活状況調査、座骨部の圧力を評価したところ、テレビ鑑賞や大学の課題作成、リモート授業、絵画などを毎日、連続3時間以上にわたりベッドを70°背上げした座位姿勢で行っていることが分かった。また、座骨部への圧力は0°で16.3 ㎜Hg、70°で65.5 ㎜Hgとギャッチアップ座位で高い事が分かった(測定機器:パームQ)。以上の評価より、褥瘡の1要因として長時間のギャッチアップ姿勢による左座骨への圧迫が影響していると考え、①テレビ鑑賞などは背上げ角度を60°以下にする ②活動時のギャッチアップ継続時間を2時間以内とするように提案した。 しかし、真面目で頑張り屋の性格や時間を忘れて熱中できる長所を持っていることで、活動を中断し背上げ角度を適宜変えることに抵抗を感じていた。その結果、生活に大きな変化はみられず、褥瘡は悪化と改善を繰り返した。 そこで、訪問介護士と訪問看護師の協力を得て、30分ごとの姿勢を日中チェックしてもらい、仰臥位、側臥位、ギャッチアップ座位それぞれの継続時間と評価期間の褥瘡の状態(DESIGN-R)を調査した。毎週の訪問リハ利用時にギャッチアップ座位継続時間と褥瘡の状態を本人へフィードバックする関わりを約3か月間継続した。その結果褥瘡が治癒したため、本人へギャッチアップ座位継続時間が短くなるとDESIGN-Rの点数が改善する傾向をグラフ化して再提示し、再度ギャッチアップ座位継続時間を自己管理するように提案した。【結果】 本人はギャッチアップ継続時間の調整を行う必要性について納得し、活動を行う際に臥位で休憩する時間を作る、大学の休み時間にベッドで休む時間を作るなどの工夫を徐々に行うようになった。現在まで褥瘡形成することなく経過している。【考察】 本人の福祉用具は重度障害者日常生活用具給付によるものであり、褥瘡の改善に対してマットレスなど環境因子の変更が難しく本人自身が背上げ角度調整、座位時間の調整で座骨部への負担軽減を行う必要があった。 今回、ギャッチアップ継続時間と褥瘡の状態について、目に見える形で本人にフィードバック出来たことで意識の変化を引き起こすことができ、褥瘡に対する自己管理が可能になった。個人因子へのアプローチに対してデータの活用が有効であった一例である。
ISSN:2434-3889
DOI:10.32298/kyushupt.2023.0_92