高度肥満のために天井走行式リフトを使用し 練習を行うことで身体機能の向上、 移乗動作の介助量軽減が図れた脳梗塞片麻痺の一症例 O-024 成人中枢神経

【はじめに】 重度片麻痺を呈する脳卒中患者の起立・歩行練習は重要だが、転倒リスクの管理に難渋することが多い。今回、血栓性脳梗塞を発症し減圧開頭術により、左頭蓋骨を欠損した高度肥満の片麻痺患者に天井走行式リフト(handicare社製RiseAtras450M 耐荷重205 ㎏ 以下:リフト)を使用して理学療法を実施した。転倒等の有害事象なく立位での理学療法介入が実施でき、身体機能や動作の改善につながったため報告する。【症例提示】 42歳男性。身長170 ㎝ 体重110 ㎏ BMI:38.6 診断名:血栓性脳梗塞、障害名:右片麻痺。現病歴:意識障害により緊急搬送され、減圧開頭術後に左頭蓋骨を摘出...

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Published in九州理学療法士学術大会誌 p. 24
Main Author 深草, 湧大
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会 2023
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ISSN2434-3889
DOI10.32298/kyushupt.2023.0_24

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Summary:【はじめに】 重度片麻痺を呈する脳卒中患者の起立・歩行練習は重要だが、転倒リスクの管理に難渋することが多い。今回、血栓性脳梗塞を発症し減圧開頭術により、左頭蓋骨を欠損した高度肥満の片麻痺患者に天井走行式リフト(handicare社製RiseAtras450M 耐荷重205 ㎏ 以下:リフト)を使用して理学療法を実施した。転倒等の有害事象なく立位での理学療法介入が実施でき、身体機能や動作の改善につながったため報告する。【症例提示】 42歳男性。身長170 ㎝ 体重110 ㎏ BMI:38.6 診断名:血栓性脳梗塞、障害名:右片麻痺。現病歴:意識障害により緊急搬送され、減圧開頭術後に左頭蓋骨を摘出した。本人希望で頭蓋骨形成術は実施されず、頭部保護帽装着しリハビリ目的で132病日に当院に入院となった。内科的な既往疾患。病前のADL、IADLは自立していた。入院翌日から理学療法を開始した。失語症のため発話は困難であったがジェスチャーでの意思疎通はある程度可能であり、Br. stage(右)は上肢、手指、下肢いずれもⅡであった。膝伸展筋力(Rt/Lt)は0N/97Nであった。感覚は深部・表在ともに中等度鈍麻であった。起居動作は全介助で、移乗時は膝折れがみられた。転倒恐怖感を11段階のスケール(0:まったく不安はない、10:とても不安がある)で聴取したところ、10であった。端座位保持練習時の疲労感はBorgスケール(以下、Borg):19(非常にきつい)であった。BP:140/85 ㎜hg P:95回/分。FIMは47点(運動22点 認知25点)であった。【介入】 転倒の危険性が高いため病棟では移乗時に床走行式リフトを使用した。高度肥満や左頭蓋骨欠損を考慮し、立位で行う下肢筋力強化や歩行、バランスの改善を目的とした運動療法にリフトを用いた。リフトは理学療法室の天井にレールを設置しており、レールの構造により前後10m程度、左右1m程度の可動性があり、症例の動きに追随する。リフト使用時は、免荷にならず、かつ転倒にならない範囲で挙上量を担当セラピストが訓練ごと調節した。各種歩行補助具や下肢装具は、課題の難易度や負荷量を調整するために随時使用した。疲労感や転倒への恐怖感を聴取しながら介入内容を変更した。【結果】 104日間の介入後、右下肢Br. stageはⅢ、膝伸展筋力は120N/164Nと改善が見られた。起居動作は自身で可能となった。移乗動作は短下肢装具を装着して見守りで可能となり、膝折れは消失した。歩行は、リフト装着下で短下肢装具とバランスウォーカーを用いて100m程度の連続歩行が見守りで可能となった(Borg13:ややきつい、転倒恐怖感:2)。加えて、担当者が不在時も同程度の運動負荷量を確保することができた。リフト使用中は、バランスを崩すことはあったが、転倒には至らなかった。病棟生活では、頭蓋骨欠損による脳挫傷のリスクを考慮し、移乗は2人介助、移動は車椅子介助であった。FIMは53点(運動28点 認知25点)となった。【考察】 脳卒中患者に対する起立・歩行練習の早期実施や練習量・頻度を増やすことは強く推奨されているが、体格の大きい重度障害者に対する介入には転倒の危険が伴う。本症例への介入時もバランスを崩すことがあり、リフト未使用であれば転倒に至った可能性は否定できない。頭蓋骨欠損の本症例において転倒回避は特に重要である。立位での運動療法実施時に転倒しない環境を準備することは、症例の転倒恐怖心を軽減させるだけでなく、理学療法士の個人因子に影響を受けず、起立・歩行練習の量や頻度を充分確保することが可能になると考える。【倫理的配慮】 本報告に際し、対象者、対象者家族に対して口頭で同意を得た。
ISSN:2434-3889
DOI:10.32298/kyushupt.2023.0_24