テストステロンの科学はどこへ向かうのか スポーツと「男性的な物質」の社会学
テストステロンはスポーツ科学において重要な物質の一つとみなされている。テストステロンは、人間の身体の優位性を生み出し、運動パフォーマンスに影響を与えるとされ、また性別確認の判断材料にもされている。そのため、テストステロンは「男性的な物質」とみなされているのである。しかしその一方で、テストステロンが真に「男性的な物質」なのかには十分な科学的根拠がない。それゆえに、テストステロンはすでに男性性というジェンダーから切り離されていると指摘する研究もある。しかしながら、それでもやはりテストステロンを「男性的な物質」として位置づける言説や科学的知識は多い。 そこで本研究では、科学技術研究(STS)におけ...
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Published in | スポーツ社会学研究 Vol. 32; no. 2; pp. 23 - 38 |
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Main Author | |
Format | Journal Article |
Language | Japanese |
Published |
日本スポーツ社会学会
2024
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Subjects | |
Online Access | Get full text |
ISSN | 0919-2751 2185-8691 |
DOI | 10.5987/jjsss.32-02-10 |
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Summary: | テストステロンはスポーツ科学において重要な物質の一つとみなされている。テストステロンは、人間の身体の優位性を生み出し、運動パフォーマンスに影響を与えるとされ、また性別確認の判断材料にもされている。そのため、テストステロンは「男性的な物質」とみなされているのである。しかしその一方で、テストステロンが真に「男性的な物質」なのかには十分な科学的根拠がない。それゆえに、テストステロンはすでに男性性というジェンダーから切り離されていると指摘する研究もある。しかしながら、それでもやはりテストステロンを「男性的な物質」として位置づける言説や科学的知識は多い。 そこで本研究では、科学技術研究(STS)における「もつれ」と「多」の概念を援用し、テストステロンをめぐるスポーツ科学の知識がどのように編成されているのかを分析することで、スポーツ科学がいかにしてテストステロンを男性性の枠の中に留めるような知を生産しているのかを考察した。 第一に行ったのは、テストステロンとトレーニングをめぐる知識がどのように生産されているのかを考察することであった。第二は、テストステロンとその他のアクターの新たな「もつれ」の意味を明らかにすること。そして第三が、女性アスリートとテストステロンの関係であった。結果、僅かしかないが他の研究と共通する事実を積み重ね続けることによって新たなトレーニングプロトコルを作成したり、テストステロンの働きを見い出すためにさまざまなアクターと結びつけたり、そして女性アスリートとテストステロンの関係についての知識を蓄積しないことが、テストステロンを男性性の枠の中に留めていることに繋がっていることがわかった。 以上から、テストステロン研究の進展が、近代的人間[Man]の理想化という権力を拡大し続けるための装置となっていることが明らかとなった。 |
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ISSN: | 0919-2751 2185-8691 |
DOI: | 10.5987/jjsss.32-02-10 |