運動イメージの想起能力と到達把持動作の関係 3軸加速度計を用いた予備的研究
【はじめに】運動イメージ(motor imagery;以下,MI)は身体運動を伴わない心的な運動の表象であり,近年では肩関節周囲炎患者のMIの想起能力が肩の関節可動域や筋力と関連することも報告されている.しかしながら,臨床現場においては,十分な身体機能を有するにもかかわらず,到達把持動作時に肩甲骨の挙上や体幹の側屈といった代償運動を認めることも少なくない.こうした姿勢制御の差異はMIの想起能力に関連している可能性も考えられるが,これまでにMIの想起能力と到達把持動作時の姿勢制御の関係について検討された報告は見当たらない.そこで今回,重量の予測が困難な物体に対する到達把持動作を課題とし,MIの想...
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Published in | 九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 p. 173 |
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Main Authors | , |
Format | Journal Article |
Language | Japanese |
Published |
九州理学療法士・作業療法士合同学会
2016
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Subjects | |
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ISSN | 0915-2032 2423-8899 |
DOI | 10.11496/kyushuptot.2016.0_173 |
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Summary: | 【はじめに】運動イメージ(motor imagery;以下,MI)は身体運動を伴わない心的な運動の表象であり,近年では肩関節周囲炎患者のMIの想起能力が肩の関節可動域や筋力と関連することも報告されている.しかしながら,臨床現場においては,十分な身体機能を有するにもかかわらず,到達把持動作時に肩甲骨の挙上や体幹の側屈といった代償運動を認めることも少なくない.こうした姿勢制御の差異はMIの想起能力に関連している可能性も考えられるが,これまでにMIの想起能力と到達把持動作時の姿勢制御の関係について検討された報告は見当たらない.そこで今回,重量の予測が困難な物体に対する到達把持動作を課題とし,MIの想起能力と到達把持動作時の姿勢制御との関係について検討した.【方法】対象は右利きの健常成人12名(男性8名,女性4名,年齢25.6±1.8歳)とした.運動イメージの想起能力の指標にはメンタルローテーション課題(mental rotation;以下,MR)を用い,両側の手が回転してある写真を48枚呈示し,手の左右を回答するよう指示し,正答率を算出した.到達把持動作は,端座位にて右手を机上に置いた肢位から,前方に置かれた500mlのペットボトルを右手で把持し,肩の高さまで持ち上げる動作とした.ペットボトルの中身は空と鉛(4kg)の2条件とし,いずれも中身が見えないようにした状態で,被検者には口頭で中身を伝えた.ペットボトルまでの距離は対象者の上肢長の110%とし,3軸加速度計LegLOG(バイセン社製)を前腕遠位背側に装着し,到達把持動作時の加速度を5回連続で計測した.分析区間は1試行目の右手が机上から離れた瞬間からペットボトルを挙上する瞬間までとし,2条件における動作時間,前後および上下加速度の最大値までの時間(以下,前後最大値時間,上下最大値時間),前後および上下加速度の最大値(以下,前後最大値,上下最大値)を算出した.統計学的処理にはR 2.8.1を用い,2条件の各抽出データをt検定にて比較した.また,MRの正答率と各抽出データとの関連について,Spearmanの順位相関係数を算出した.有意水準は5%とした.【結果】動作時間は空:0.50±0.12ms,鉛:0.67±0.23msであり,有意差が認められた(p<0.05).前後最大値時間は空:50.28±%,鉛:37.33%であり,有意差が認められた(p<0.01).上下最大値は空:8.14±1.79m/s2,鉛:10.74±3.18 m/s2であり,有意差が認められた (p<0.05).また,MRの正答率は,鉛の動作時間(r=-0.71,p<0.05),鉛の前後最大値時間 (r=0.87,p<0.05)との間に関連が認められた.【考察】到達把持動作時の上肢の加速度には加速相と減速相があり,慎重さが求められる課題では加速期が短縮し減速相が延長するため,加速度が最大値に到達する時間が短縮することが知られている.本研究の結果,鉛条件において動作時間が有意に延長し,前後最大値時間が有意に短縮したことから,重量の予測が困難な鉛条件ではより慎重に対象物への到達を行っていたと考えられる.また,鉛条件において上下最大値が有意に増大したのは,鉛の重量に適応してペットボトルを挙上するためにより大きな上向き加速度を生じたためと思われる.次に,MRの正答率が鉛条件の動作時間と負の相関を示し,また,鉛条件の前後最大値時間と正の相関を示したことから,MIの想起能力が低いほど,重量の予測が困難な鉛条件において慎重に対象物への到達を行っていたと考えられる.これらのことから,MIの想起能力が到達把持動作の適応的な姿勢制御と関係する可能性が示唆された.【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,所属大学の倫理審査委員会の承認(承認番号 15-Ifh-77)を得て実施した. |
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ISSN: | 0915-2032 2423-8899 |
DOI: | 10.11496/kyushuptot.2016.0_173 |