香港・マカオ人高齢者の越境移住とその支援 中国広東省調査を事例に

本稿は,中国本土に移住した香港・マカオ人高齢者を対象とした質的調査をもとに,移住の構造と移住高齢者の生活実態を明らかにする。さらに,政府・市場・社会団体が関与する移住の構造が,移住高齢者が以前から抱えてきた相対的貧困や社会的孤立といった問題を解消できない結果,支援不足の中でこれらの問題が中国本土においても依然として存在していることを議論する。 香港・マカオ人移住高齢者は中国本土に自由に移住できるが,実際には自由意思による移住というよりも,香港・マカオからの退去を余儀なくされ,中国本土への移住を選択せざるをえなかった場合がある。中国本土においては,公的支援が不十分であると同時に,高齢者サービスの...

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Published in現代社会学研究 Vol. 38; pp. 57 - 75
Main Author 羅, 欣寧
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 北海道社会学会 2025
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ISSN0915-1214
2186-6163
DOI10.7129/hokkaidoshakai.38.57

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Summary:本稿は,中国本土に移住した香港・マカオ人高齢者を対象とした質的調査をもとに,移住の構造と移住高齢者の生活実態を明らかにする。さらに,政府・市場・社会団体が関与する移住の構造が,移住高齢者が以前から抱えてきた相対的貧困や社会的孤立といった問題を解消できない結果,支援不足の中でこれらの問題が中国本土においても依然として存在していることを議論する。 香港・マカオ人移住高齢者は中国本土に自由に移住できるが,実際には自由意思による移住というよりも,香港・マカオからの退去を余儀なくされ,中国本土への移住を選択せざるをえなかった場合がある。中国本土においては,公的支援が不十分であると同時に,高齢者サービスの購入が移住高齢者およびその家族にとって大きな経済的負担となる。社会団体による支援は存在するものの,移住高齢者を十分に支える主体とはなり得ない。さらに,移住高齢者が老後生活を主体的に生きようとしても,その可能性は健康状態や生活環境によって大きく制限される。その結果,移住高齢者が家族に過度に依存する状況が生じ,中国本土においても社会的排除が再生産されることになる。
ISSN:0915-1214
2186-6163
DOI:10.7129/hokkaidoshakai.38.57