言語での苦痛表出が困難であった肺癌末期の症例 呼吸苦の緩和を目指して

【はじめに】 寝たきり高齢者の終末期には「人間らしさの保持」が最も必要であると言われている.そして,その達成には,「惨めでない」,「苦痛がない」,「大切にしてもらえている」の3点が挙げられている.今回,介入を行った症例は,肺癌の末期状態にある80歳代の男性である.入院から死亡前日までの約10週間の介入の経過を報告する. 【症例紹介】 80歳代男性.診断名:肺癌,パーキンソン病,多発性脳梗塞.現病歴:H22/10/28療養目的にてA病院より当院へ転院.主訴:左胸が痛い,息苦しい.Hope:聴取困難.なお,発表にあたり,口頭にて同意を得た. 【理学療法評価】 覚醒はまばらで傾眠.短文レベルでの会話...

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Published in関東甲信越ブロック理学療法士学会 p. 54
Main Authors 加藤, 仁志, 原田, 脩平
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会 2011
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ISSN0916-9946
2187-123X
DOI10.14901/ptkanbloc.30.0.54.0

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Summary:【はじめに】 寝たきり高齢者の終末期には「人間らしさの保持」が最も必要であると言われている.そして,その達成には,「惨めでない」,「苦痛がない」,「大切にしてもらえている」の3点が挙げられている.今回,介入を行った症例は,肺癌の末期状態にある80歳代の男性である.入院から死亡前日までの約10週間の介入の経過を報告する. 【症例紹介】 80歳代男性.診断名:肺癌,パーキンソン病,多発性脳梗塞.現病歴:H22/10/28療養目的にてA病院より当院へ転院.主訴:左胸が痛い,息苦しい.Hope:聴取困難.なお,発表にあたり,口頭にて同意を得た. 【理学療法評価】 覚醒はまばらで傾眠.短文レベルでの会話は可能だが,自発話は少ない.安静時の表情としては,眉間にしわが寄り,苦しそうに呼吸する様子が見受けられた.呼吸は口呼吸優位で腹部・胸郭の動きは乏しい.リズムも不規則で速い.呼吸数は20回/分でSpO2は95%であった.口腔内は乾燥し,唾液の減少,舌萎縮,舌跟沈下がみられていた.また,頸部・肩甲帯周囲の呼吸補助筋群の過緊張みられていた.パーキンソン徴候としては,無動,仮面様顔貌,姿勢反射障害が陽性であった.ADLは全介助レベル. 【経過】 目標として,呼吸苦の軽減,胸郭可動性向上,呼吸補助筋の過緊張緩和を挙げた.問題点として,胸郭可動性低下,呼吸補助筋の過用,舌根沈下を考えた.介入開始一週間後に,一般病棟から療養病棟へ転棟となり,転棟後,カンファレンス実施した.筆者は,ベッド上でのポジショニングと室内環境の調整,白色ワセリンによる皮膚保護と外観の維持を提案し,病棟スタッフに実施していただいた.開始3週頃より,病状進行に伴い,覚醒低下し,意思疎通も困難となった.呼吸ではSpO2が91%とやや低下してきた.しかし,理学療法後はSpO2が96%までの増大みられ,苦痛の表情も緩和された.開始4週目に左大脳半球に多発梗塞巣の拡大が発見された.右上下肢に弛緩性麻痺がみられたため,新たなベッド上でのポジショングと介助方法を提案した.開始7週より,無呼吸状態の出現がみられ,呼吸状態はさらに悪化した.しかし,家族より「リハビリの後は呼吸が楽そうです」との報告を受けた.開始10週目に,死亡退院となった. 【考察】 終末期における「人間らしさの保持」は,スタッフ単独で行うものではなく,チームアプローチによって行い,達成されるものである.その中で筆者は,理学療法士として,呼吸の安楽に重点を置いた.本症例の苦痛は,主訴にもあるように,呼吸状態の悪化と考え,介入を行ってきた.理学療法実施後は,呼吸の安定みられ,表情の緩和もみられていた.また,家族からも良好な報告を得られることができたため,本症例の苦痛を少なからず緩和することが出来たと考える.
Bibliography:O1-9-054
ISSN:0916-9946
2187-123X
DOI:10.14901/ptkanbloc.30.0.54.0