研究 虚血中の心臓ペーシングが虚血再灌流傷害に及ぼす影響 心房ペーシングと心室ペーシングの相違

心房ペーシングと心室ペーシングの相違は,主に電気生理学的,血行動態的観点から検討されている.しかし,虚血心筋においてペーシング部位の差が虚血・再灌流心筋傷害に及ぼす影響に関して心筋エネルギー代謝,心筋Ca2+過剰などの視点から検討した報告はほとんどない.よって本研究は心筋虚血時のペーシング部位の差が虚血心筋傷害,虚血からの回復に及ぼす影響を検討することを目的とした.ラット摘出心でLangendorff手技を用いて10分間の虚血前灌流,25分間の完全虚血,30分間の再灌流を順次行った.虚血中5Hzで右房ペーシングを行った心房ペーシング群(AP群)と虚血中5Hzで右室ペーシングを行った心室ペーシン...

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Published in心臓 Vol. 27; no. 4; pp. 293 - 299
Main Authors 谷, 正人, 海老原, 良典, 朝倉, 靖, 新村, 健, 中村, 芳郎
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 公益財団法人 日本心臓財団 15.04.1995
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ISSN0586-4488
2186-3016
DOI10.11281/shinzo1969.27.4_293

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Summary:心房ペーシングと心室ペーシングの相違は,主に電気生理学的,血行動態的観点から検討されている.しかし,虚血心筋においてペーシング部位の差が虚血・再灌流心筋傷害に及ぼす影響に関して心筋エネルギー代謝,心筋Ca2+過剰などの視点から検討した報告はほとんどない.よって本研究は心筋虚血時のペーシング部位の差が虚血心筋傷害,虚血からの回復に及ぼす影響を検討することを目的とした.ラット摘出心でLangendorff手技を用いて10分間の虚血前灌流,25分間の完全虚血,30分間の再灌流を順次行った.虚血中5Hzで右房ペーシングを行った心房ペーシング群(AP群)と虚血中5Hzで右室ペーシングを行った心室ペーシング群(VP群)の左室機能の回復,心筋エネルギー代謝産物の回復,心筋イオン動態を虚血中まったくペーシングしない対照群と対比した.VP群において再灌流後の左室拡張末期圧は著明に上昇し,その結果左室発生圧の回復率は低値だった.再灌流終了時の心筋45Ca2+取り込み量はVP群で最も高値で,AP群においても対照群より高値だった.再灌流5分後の細胞内Na+含量はAP群,VP群間に差はなく両群とも対照群より高値だった.VP群では虚血早期から心筋乳酸の高度の蓄積が認められ,心筋クレアチン燐酸含量は,虚血終了時,再灌流終了後ともに対照群に比べ低値だった.以上より完全虚血中の心室ペーシングは再灌流後の左室機能の回復を悪化させ,その機序として虚血中の心筋エネルギー代謝の早期悪化,虚血終了時の心筋Na+蓄積の過剰と再灌流時の心筋Ca2+過剰の関与が示唆された.心筋Ca2+過剰の経路としてNa+/Ca2+交換の亢進,虚血中の電位依存性のCa2+流入が推測された.AP群においては軽度のCa2+過剰が認められたが対照群と比して左室機能の回復に差は認められなかった.よって臨床の虚血心においても,安易に心室ペーシングを行うべきでないことが示唆された.
ISSN:0586-4488
2186-3016
DOI:10.11281/shinzo1969.27.4_293