体表面心電図の所見と心室性不整脈発症の関係

(背景)体表面心電図の種々の指標は心室性不整脈の発症を予測・評価することに用いられ, その有用性も示されている. しかし心内の三次元的な電気現象が体表面心電図にどのように反映されるかは十分明らかではない. (目的)QT延長症候群の実験モデルと臨床例で, 体表面心電図が心室性不整脈発症に関係する心室内の電気現象をどのように記録するか検討した. I:実験的検討 (対象と方法)anthopleurin-Aを用いてLQT3モデルのビーグル犬を作成した. 静脈麻酔下に呼吸管理を行い, 電極間距離1mmの8極の針電極を左室側壁の心基部側で心外膜側から心腔内に向けて挿入し, 貫壁性単極誘導電位(心内膜層:E...

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Published in心電図 Vol. 22; no. 6; p. 700
Main Authors 池主雅臣, 保坂幸男, 古嶋博司, 鷲塚隆, 相澤義房
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本心電学会 25.11.2002
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ISSN0285-1660

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Summary:(背景)体表面心電図の種々の指標は心室性不整脈の発症を予測・評価することに用いられ, その有用性も示されている. しかし心内の三次元的な電気現象が体表面心電図にどのように反映されるかは十分明らかではない. (目的)QT延長症候群の実験モデルと臨床例で, 体表面心電図が心室性不整脈発症に関係する心室内の電気現象をどのように記録するか検討した. I:実験的検討 (対象と方法)anthopleurin-Aを用いてLQT3モデルのビーグル犬を作成した. 静脈麻酔下に呼吸管理を行い, 電極間距離1mmの8極の針電極を左室側壁の心基部側で心外膜側から心腔内に向けて挿入し, 貫壁性単極誘導電位(心内膜層:Endo, 心筋中層M細胞層:Mid, 心外膜層:Epi)を体表面心電図とともに記録した. データはパーソナルコンピュータに取り込んで, activation-recovery interval(ARI)を不応期の指標として測定した. 針電極遠位端の記録をEndoとし, 近位端の記録をEpiとした. また中間の電極でARIが最も延長した部位の電位をMidとして用いた. 貫壁性の不応期の不均一性は各針電極での最大ARIと最小ARIの差として求めた(ARID). 心拍数は房室ブロック作成後の心室ペーシングまたは迷走神経刺激を用いて行った. (結果)(1)徐脈状態ではMidのARIがEpi/Endoに比して著明に延長し, 貫壁性のARIDは増大した. 心室頻拍は期外収縮の興奮がMid領域で伝導ブロック(CB)または伝導遅延(DC)を生じることを契機に発症した. 徐脈状態において体表面心電図のQT間隔は延長したが, T波の形態は必ずしもLQT3に特徴的(late appearing T)ではなかった. またARIDが体表面心電図のT波頂点から終末部の間隔よりも小さい場合があり, この指標は貫壁性の不応期の不均一性を過小評価する可能性が示された. (2)T波交代現象(TWA)では, 心拍毎に心室貫壁性の再分極勾配が逆転する現象が見られたが, 体表面心電図のT波の極性は必ずしも逆転しなかった. TWA中の心室頻拍の多くはQT間隔の長い心拍に一致して生じる心室早期興奮が, Mid領域でCB/DCを生じることを契機として発症した. TWAの振幅が大きくなると, QT間隔の短い心拍の興奮は先行するQT間隔の長い心拍が残した不応期でCB/DCを生じ, QRSの幅は広くなりまた収縮期血圧は弱脈となった. QRS波形と血圧の交互脈を伴うTWAでは, 心室頻拍は洞結節由来の興奮からも生じ, 頻拍発症に心室早期興奮は必須でなかった. (3)体表面心電図の2段脈に引き続いて心室頻拍が発症する場合, 心室頻拍発症の契機となる期外収縮の興奮はMid領域で新たなCB/DCを生じていた. CB/DCが新たに生じた原因には, 先行する心拍の局所での伝導遅延や拡張期間隔の変動が関与していた. II:臨床例の検討 (対象と方法)LQTS症例の心臓カテーテルの際, 心内に配置した多極電極カテーテルの各電極から単極誘導を記録しつつ, 左冠動脈にアセチルコリン注入を行った. (結果)アセチルコリンの注入により冠攣縮や血圧低下は見られなかったが, 体表面心電図のQT間隔と心内電位のARIはともに延長した. アセチルコリン注入に引き続いて多形性心室性不整脈が発症した症例では, 心内ARIの交代現象. 期外収縮による二段脈と局所伝導ブロックなど, 実験モデルと類似した心室頻拍発症様式が観察された. しかしこれらの心内局所の電気現象を体表面心電図記録で評価することは必ずしも容易でなかった. (結論)LQTSでは体表面心電図のQT間隔延長やT波の変化は心室内の不応期延長とその分布の不均一性に関係するが, 心室性不整脈の発症に関与する心内局所の電気現象の全てを体表面心電図で評価することには限界があると思われた.
ISSN:0285-1660