日本蘇生学会と病院前救急との係わり 秋田市の事例検証からさぐる

はじめに 秋田市の救急救命士が日常的に違法な気管挿管を行っていた事実は, 秋田市消防が認めるところである. 本学会は, 再発防止, MC体制のあり方並びに救急救命士の質的向上に資することを目的に, 関係学会と協力して4学会合同調査会に参加した. A, 医学学術団体の社会的側面 過っては孤高の存在であった医学学術団体(学会)は, 厚労省からは学会専門医制度を施策に組み込まれ, 市民社会からは社会組織の一員として医療における責任と安全確保の義務を背負わされるなど, 180度の転換期を迎えている. 学会は, もはや社会との関係を絶って学問の世界に没頭することは許されず, 社会の一員として発言し, 権...

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Published in蘇生 Vol. 22; no. 3; p. 163
Main Author 丸川征四郎
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本蘇生学会 10.10.2003
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ISSN0288-4348

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Summary:はじめに 秋田市の救急救命士が日常的に違法な気管挿管を行っていた事実は, 秋田市消防が認めるところである. 本学会は, 再発防止, MC体制のあり方並びに救急救命士の質的向上に資することを目的に, 関係学会と協力して4学会合同調査会に参加した. A, 医学学術団体の社会的側面 過っては孤高の存在であった医学学術団体(学会)は, 厚労省からは学会専門医制度を施策に組み込まれ, 市民社会からは社会組織の一員として医療における責任と安全確保の義務を背負わされるなど, 180度の転換期を迎えている. 学会は, もはや社会との関係を絶って学問の世界に没頭することは許されず, 社会の一員として発言し, 権利と義務を行使することが不可欠になった. この時代背景を考えると, 「日本蘇生学会と病院前救急との係わり」は, まさに「本学会と社会との係わり」を論じることに他ならない. 本来は, 学会理事会や将来計画担当の委員会が熟慮して練り上げるべき内容であるが, 演者の個人的な見解が多少でも役立てば幸いである. B, 4学会合同調査会報告書の概要 4学会合同調査会は, 日本救急医学会と日本蘇生学会が呼び掛けの趣旨に賛同した日本麻酔科学会と日本臨床救急医学会が加わって成立した(平成14年4月). 現地の行政機関, 医師会, 医療機関の関係者から聞き取り調査を行い, 事実関係と問題点をまとめた報告書(第1報, 平成14年7月)と, 秋田市の心肺蘇生に関わるデータと発表論文の検証, ならびに気管挿管事例の検証を行った報告書(第2報, 平成15年7月)を公表した. 違法な気管挿管が行われた背景には, 違法性を認識しながら阻止できなかった指導的立場の医師にも, 責任の一端は存在する. 搬送記録には不適切な気管挿管や記録が散見されことから, 演者は臨床的な訓練以上に, 臨床に携わる人としての倫理観と科学的な姿勢を教育することの必要性を痛感した. C, 病院前救急, 救護との係わり4学会が歩調をあわせて社会的な事業を遂行したのは始めてであり, 本学会が病院前救護体制と救急医療に携わる学術団体として, 厚労省をはじめ関連の諸団体からの認知された意義は大きい. しかし, 社会活動の基盤としては未熟であり, 強化する必要がある. 現在, 包括的指示下での除細動が解禁され, 気管挿管の実施, 特定の薬物使用の実施が迫っている. 実施された場合, 現場の混乱を最小限に抑え質を高めるために本学会は病院前体制, 研修, 教育にも興味を持ち, 積極的に参画すべきである. しかし, 学会員の一人でも多くが病院前救護, 救急での診療に携わること, また学会員の論文の1編でも多くが2005年に改定予定の国際心肺蘇生法ガイドラインに引用されること, が全ての基盤になると予想される. 本学会が病院前救護, 救急への積極的な係わりを望むのであれば, 意図的に基盤強化を図るべきである.
ISSN:0288-4348