近赤外レーザー照射による中枢神経活動制御

1. 目的 これまでに, 組織内透過性にすぐれた近赤外レーザー光(波長830nm)を用いて, 脳内の局所神経活動を可逆的に抑制する技術を確立してきた. 本技術によって, 今後, 脳の情報処理システムの解明が格段に進むことが期待される. そこで, (1)レーザー光がいかなるメカニズムを介して神経活動を抑制しているのか, (2)脳内情報処理に関する研究において, 本技術を利用できるかについて電気生理学的手法を用いて検討した. 2. 対象と方法 ラット脳の海馬スライスおよび初代培養神経細胞を対象に細胞外記録法バッチクランプ法を用いて, 近赤外レーザー光照射による神経伝達抑制効果および神経細胞膜機能に...

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Published in日本レーザー医学会誌 Vol. 25; no. 2; p. 118
Main Authors 片岡洋祐, 小田-望月紀子, 田村泰久, 山田久夫
Format Journal Article
LanguageJapanese
Published 日本レーザー医学会 15.07.2004
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ISSN0288-6200

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Summary:1. 目的 これまでに, 組織内透過性にすぐれた近赤外レーザー光(波長830nm)を用いて, 脳内の局所神経活動を可逆的に抑制する技術を確立してきた. 本技術によって, 今後, 脳の情報処理システムの解明が格段に進むことが期待される. そこで, (1)レーザー光がいかなるメカニズムを介して神経活動を抑制しているのか, (2)脳内情報処理に関する研究において, 本技術を利用できるかについて電気生理学的手法を用いて検討した. 2. 対象と方法 ラット脳の海馬スライスおよび初代培養神経細胞を対象に細胞外記録法バッチクランプ法を用いて, 近赤外レーザー光照射による神経伝達抑制効果および神経細胞膜機能に対する作用を検討した. また, 麻酔下のスナネズミ中枢神経一次聴覚野を対象に, 音刺激に反応するニューロンの活動をレーザー照射により抑制できるか, さらに神経ネットワーク研究へ応用できるかを単一ニューロン活動記録法により検討した. 3. 結果と考察 近赤外レーザー光は照射出力1-5W/cm2でラット海馬スライス標本内の興奮性シナプス伝達を数分以内に, かつ可逆的に抑制した. パッチクランプ実験の結果から, この抑制は, 神経細胞膜の過分極と膜抵抗の低下により引き起こされることが示唆された. さらに実際に機能しているスナネズミ一次聴覚野へ応用し, レーザー照射領域内のニューロン活動を一時的に抑制することに成功した. 音情報は下丘での情報処理を介して一次聴覚野へ伝えられるが, 同時に一次聴覚野は下丘での音情報処理を遠心性に修飾し, 必要な情報だけをピックアップしていると考えられている. そこで, 一次聴覚野がどのように下丘のニューロン活動を制御しているのか, 一次聴覚野へのレーザー照射実験によって調べた. 結果, 一次聴覚野が下丘ニューロン活動を抑制/促進, あるいは反応時間潜時の短縮/延長など, さまざまなパターンで制御していることが明らかとなった. 4. 結論 近赤外レーザー光は神経細胞膜への直接作用(膜電位の過分極と膜抵抗の低下)により, 神経シナプス伝達を可逆的に抑制するものと考えられた. 本技術は時間空間分解能にすぐれた脳局所神経活動抑制を実現し, 脳内神経ネットワーク研究に大いに貢献するものと思われる.
ISSN:0288-6200